式ワタリによる、好きな物を愛でるブログサイト。完全復活目指して頑張ります。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
いつきちゃんと伊達さんのお話です。この二人もなんか好き。
06:木漏れ日
北国にも当然、夏と言う物は訪れる。
それは南の国々と比べると厳しい物ではないのだろうが、そんな事、生まれてから他国へ滅多に出る事が無かった身には関係無いのだ。
自分にとってはここが全て。
一人が望むには広すぎる、この場所が自分の全てなのだ。
だというのに。この場所でさえ広過ぎるのに、さらに広い場所を治めているこの若くて妙な『お侍さん』は、もっと広い世界を求めている。
それが、いつきには不思議で不思議で仕方がない。
「何で、奥州だけじゃダメなんだ?」
「ん?」
「どうして全国統一なんてやるんだべ?」
青々と葉の茂った一本の木の下、いつきと政宗は二人並んでそこにいた。
いつきは足を投げ出して草の上に座り、政宗はそこに仰向けに寝転がって、両手を枕に上を見上げている。いつきたちの傍にはそれ以外に何も無い。本来ならあるべきかもしれない自分の得物たちは、少し離れてはいるが目に映る場所に放り投げてしまっている。
盗られはしないかと心配になる様な扱い方ではあったけれども、そんな事は有り得ないだろうという良く分からない確信があった。何故なのだろうかと首を傾げて見ても、答えらしい答えは見つからない。もしかしたら、穏やかに吹き抜ける涼風の心地よさのせいかもしれなかった。
眠たくなりそうだと思い、ちらりと仰向けになっている政宗の方を見れば、彼の目は開いていなかった。まだ起きているのは先のはっきりとした返答があったから分かるのだが、放っておいたら本当に眠ってしまうかもしれない。
一国の主がこんなところで眠ってしまって良いんだろうかと、ちょっと呆れる。
寝首を掻かれたり、なんて考えないのだろうか。
「誰かが一つにしねぇとなんねぇだろ」
「それを、何でおめぇさんがやる必要があるんだべ?」
「必要、ねぇ……そんなもん、言われてみりゃ確かにねぇよな。けどな、そんなの言ったら誰にだってねぇだろ、そんなの」
ただ、と彼は続けた。
「誰かがやるんだ。俺がやったって誰も文句は言わねぇだろ」
「おめぇさんに負けた人たちは言うんじゃねぇだか?」
「そりゃそうだ」
くく、と笑って政宗は肯定を示した。
その様を見てから、いつきは視線を前の方に移した。
まだ収穫する事も出来ない、たくさんの稲の苗が植えられた田んぼがあった。遠い方を見れば、青い山だっていくつもある。その山々の上には鮮やかな空色。夏特有の、さっぱりとした色彩がそこには多く存在している。
人はこの世界に領地という区切りを作り上げてしまっているけれど、そんなもの、きっと世界は何とも思っていないのだろう。気にも留めず、誰の物にもならずここにあるのだ。自然と言うのは、何よりも偉大なのだから。
それを取り合おうとする人々を、自然はどう思って見ているのだろう。
そんな考えに対する意見を聞いてみようかと考えたいつきは、ほんの少しだけ思いと言葉を変えて尋ねかけた。
「もしも神様がいたら、おめぇさんたちのやってる事、何て言うんだろうな」
「何も言わねぇまま、笑うんじゃねぇのか?」
「……それでも、やるんだべ?」
「当たり前だろ。神だろうと何だろうと、文句があるなら俺が喧嘩売りに行ってやる」
「不遜だべ……」
呟くようにそう言うと、彼は不敵な笑みを浮かべた。
その笑みを見ていると、政宗なら本当に喧嘩を売りに行きかねないと思ってしまう。それを止めるのが彼の右目の仕事なのだろうが、結局、最終的には押し切られて一緒に神様の目の前まで行ってしまうのだろう。
あながち間違いではなさそうな想像に苦笑していると、ちょん、と肘をつつかれた。
「何だ?」
「俺はしばらく寝る。その間、よろしく頼むぜ」
そう言うや否や、微かな寝息が聞こえてきたのだから、もう溜め息を吐くしかない。
「器が大きいとか言う人もいるんだろうけどなー……」
これはどう考えても。
「……絶対に、そんなんじゃないと思うべ」
けれどもまぁ。
そんな所も、別に嫌いじゃないのだけれど。
ふと顔を上げれば、優しい木漏れ日が眠れ眠れと囁くように降り注いでいるのが見えて、いつきは軽く肩を竦めた。
いつきちゃんの喋り方は難しいです。
PR
この記事にコメントする