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タイトルを見ていただければ分かると思いますが。某映画パロです。
「なーなー、静雄、やっぱ名前ってフルネーム分かんないとダメなのかよ」
「だろーな。つーか手前は名前思い出せてんだからとっとと逃げろよ」
「えー?でもそれって恰好悪くねぇ?」
「恰好悪かろうと永遠のタダ働きよりマシじゃねぇか」
しん、と静まり返った建物の中。
千景と静雄は食堂で向かい合って座っていた。
別に、この時間に会っている事に関して深い意味は無い。ただ単に、二人の暇な時間の中で重なり合うのがこの……就寝時間だったという、それだけの事。
そして睡眠時間を削ってでも会う理由が、二人…否、千景にはあった。
その『理由』に思いを馳せつつ、机に顎を載せて千景は呻く。
「けどな、やっぱ助けようと決めたヤツくらいは助けたいし」
「…余計な世話だ。俺をどうにかするんなら、その前に別のヤツらをどうにかしてやれ」
「んー、確かにハニーたちは助けたいかな…でも、先にアンタ」
「……ワケ分かんねぇ」
「そんな事言われてもな……何か投げだして他に手を出すより、ちゃんと順番にやった方が公平だと思わねぇ?っていうか、アンタが一番どうにかしてやらないとっていう立ち位置にいるだろ、元から」
言うと、彼はため息を吐いた。それはこちらがしたい事だったのだけれど。
……これが、千景の『理由』だった。
この場所に迷い、訪れてしまったものは一人残らず名前を奪われる。そして、奪われた人々は奪った者の言葉に従い、行動しなければならないと言う『制約』を与えられるのだ。
そんな能力を持つ千景たちの『雇い主』は、自分たちが逆らえない事を良い事に、相場と比べるととんでもなく安い賃金で『従業員』をこき使う。ちゃんと労働基準法にのっとってタイムスケジュールが組まれているのが……せめてもの救いだけれど。
こんな劣悪な環境の中で、さらに大変なポジションに立たされている人物がいる。
それが、目の前で頬杖をついて、呆れ顔をこちらに向けている彼……静雄。
彼の場合は安すぎる賃金…それすらもなく、労働時間が自分たちより長い。それに、多少の自由時間も無く、それを作りたいのならば睡眠時間を削り、なおかつ『雇い主』に気付かれないように出てこなければならないのだ。
嫌がらせに近いその所業に、彼に対して同情する『従業員』も多い。
運良く本名を取り戻した千景が、誰よりも最初に彼を自由にしてやりたいと思ったのは……そんな事情があったのである。
幸い協力者もいて、彼は勝手に名付けられていた『シズ』ではなく、『静雄』という名前を取り戻し使えるようになったのだけれど。
問題は名字の方だった。
「でもなー…苗字がな…『静雄』ってのは掃除がてら書斎探ってた杏里ちゃんが偶然見つけたわけだし……やっぱ、あるとしたら書斎?」
「可能性はあるかもな。アイツ、個人情報に関しては妙にマメだし……だからって手前が忍び込もうとするんじゃねぇぞ。絶対ブラックリストに載ってんだからな」
「あ、そこはドタチンに頼むから大丈夫」
ぱたぱたと手を振りながら答えると、彼はちょっと渋い顔を浮かべた。
「…ちゃんと門田とか京平とか呼んでやれよ」
「えー?」
「えー、じゃねぇ」
ちょっとごねてみると、軽く額を小突かれた。
…軽かったけれど、彼の一撃なので結構痛かった。
涙目になりつつも額を抑え、ゆっくりと体を起こす。
「…でも、とりあえずドタチンに頼むってのは一番の策だろ?あの人は外で濡れてたの俺が勝手に入れただけだから、存在ばれてないだろうし」
「どーだかな。ヤツの情報網は甘く見んなよ。…つーかドタチンは直す気ねぇのか」
「けど、じっくり探したいならこれしかねーだろ。杏里ちゃん、美香ちゃんにも手伝ってもらって探してみるって言うけど、女の子を危険には晒せねぇし」
「門田ならいいのかよ…」
「アイツ強いし、何より自分から買って出てくれたんだぜ?なら任せるしかねぇだろ」
こういう時、自分から行くと言ってくれた人は誰であれ、本当に頼りになるのだ。実際に杏里がそれに近かったわけだし、それとは別に何人も自分の意思で助けてくれている。この間は確か、帝人と正臣が手伝ってくれたのだったか。
やはり皆、酷過ぎる静雄の待遇はどうにかしてやりたいと思っているのだ。
「へぇ…門田のヤツ、最初にかくまうの手伝ってやったのを恩にでも感じてんのか?」
「普通に心配なんだろうと思うぜ。…っと、もうこんな時間か」
柱にかかっているそれに目をやり、千景は立ちあがった。
「悪いな、付き合わせちまってさ」
「いや…お前らの行動を聞いときてぇって言ったのは俺だし」
「でも、悪ぃ。…じゃ、戻ったら早く寝ろよ!」
「手前こそな」
軽く手を振って、二人は別れた。
そうして暗い廊下を一人で歩く事になる千景は思う。
とにかく、早く名前を返してやれたらいい、と。
雇い主は臨也。そして、顔なしポジにドタチンです。
ろっちーとシズちゃんはまぁ、中心のあの二人。
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