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073:巫女
テントを張りに行くと言った慶次と元親の二人を除いた四人で、夕食まで時間があるからと、政宗たちは旅館から歩いて直ぐの所にある小さめの町にやって来ていた。
外からの客をターゲットにしているのであろう売店を幾つか覗いた後、偶然見つけた茶屋に入る。そこで甘味を注文しながら暑苦しいライバルの事を思いだしたのは、まぁ、仕方ないと言えば仕方ない事なのだろう。
……その紅が、目の端に見えた気がするのは気のせいと言う事で。
…………その傍に、そんな彼のせいで気苦労ばかりの三年生が見えた事も、だから気のせいに違いない。
どうやらあちらもこちらに気付かなかったか、あるいは気のせいと言う事にしたらしく、自分たちが茶屋を出て行っても何も言われなかったし何の反応もされなかった。
その事に何となくほっとしたのだが、慌てて首を振る。違う違う、あれは気のせいなのだから安堵する必要も必然も全く無いわけで、ならばほっとする、というのは今取るべきリアクションでは全く無くて……。
と、横から不審げな声がかけられた。
「政宗君、突然首を横に振って何やってるの?」
「え!?あ、いや、別に何でもねぇよ!?幻が見えたとかそんなわけじゃねぇし!」
「何か見たのですね」
「だから幸村も佐助も見てねぇって言ってるだろ小十郎!」
「見たのか」
「だから見てねぇって!」
半兵衛、小十郎、元就の追及にブンブンと先ほどの比で無い程に首を振って答え、話を逸らそうと何かないかとあたりをきょろきょろと見渡し、そして、政宗は、また知り合いを見つけてしまった……今度は紅でも苦労人でもなかったが。
「……市?」
「あ……独眼竜……?」
驚いたのか何度も瞬きしている彼女は、何故か……巫女の衣装を着ていた。
「……お前、その恰好どうしたよ」
「えっと……近くの旅館に、長政様と旅行に来てて……こっちに来た時に、神社が忙しそうだったから、手伝おうって事になって……あ、だから長政様は神主の格好をしてるの」
「バイトか?」
「……うん。時給1000円だって」
「それって結構良いバイトじゃない?浅井君のバイト代と合わせたら、短期間でも結構稼げそうだ」
半兵衛がそう言うと、市は、けれども首を傾げて口を開いた。
「でも、長政様の時給は740円だよ……?」
「差が歴然としてんな……」
誰だ二人の雇い主。
市と長政の圧倒的待遇の差にちょっと愕然とした政宗だった。
……というか、市は旅行に来たと言っているけれど、なのに現地でバイトに勤しむと言うのはどうなのだろうか。旅行と言う事はつまり、こちらに羽を伸ばしに来たと言う事なのだと思うけれども……それで働くというのは普通ないんじゃなかろうか。……まぁ、本人たちが良いならそれで良いのだが。
「……で、市、働いてる神社ってどこだ?」
「あの山の途中くらい……かな」
市は、右の人差し指でとある方向を指さした。
誘導されるようにそちらを向き、政宗は思わず顔を引き攣らせた。ちらりと視界の端に見えた小十郎の頬に、冷や汗が流れているのが見えて。……自分の様に驚愕を表情に出していないだけ、本当に凄いと心の底から思う。
山の中にある赤い鳥居は、今まで何で視界に入れなかったのかと思うくらい直ぐ、あっさりと見つかった。周りが緑だけだから、というわけではない。周りに緑が一つもないから、である。ハッキリ言ってしまうと、鳥居の周りの木々には一枚たりとも葉っぱが付いていなかったのだ。おかげで建物らしい存在までもを視認出来るくらいである。……あの木々に何があったのだろう。
呆然としている間にも、大人しめの声が耳に届く。
「昔から……何でなのかは分からないけれど、あの神社の周りの木には葉っぱがつかないらしくて……枯れてはいないらしいんだけど。……でね、よく、鴉が遊びに来るんだって神社の人が言ってたよ。……だから『鴉神社』とか『黒羽神社』って呼ばれてるらしいの」
……不吉な気がするのは気のせいだろうか。
ぶわ、と噴き出た冷や汗を意識の外に追いやって、無理矢理笑みを作る。
「……そ……そうかい」
「……うん」
どうにか絞り出した相槌に市はこくりと頷き返して、少し影のあるいつもの微笑みを浮かべた。
「もしも良かったら……遊びに、来てね?」
「……あぁ」
応えながら、思った。
悪いけれども多分……あの神社まで遊びに行く事は無いだろう。
……どんな神社なんだろうか。そしてそちらにいるであろう長政様は無事なんだろうか。
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