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唄が関係するのは最初の一回だけです。
アニメ録慰安旅行の番外編。浅井さんちのお話です。



008:唄
 
 
 
「……市、一つ訊きたいのだが」
「……何?」
「この……どこからともなく聞こえてくる歌の正体が何なのか……お前は分かるか?」
 神社でのバイトを終えてからずっとこの調子だとため息を吐くと、彼女は、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。
「正体って……長政様……肩に手、」
「さて明日はどうしたいとかいう案は無いか?」
「無いよ……それより長政様、手、」
「実は私も無い。だからもう帰りたいと思うのだがどうだ?」
「え……帰るの……?」
 二度にわたって市の言葉を必死に遮り、どうにか話題を変えようとしたのだが上手くいったらしい。帰る、と言う言葉に反応した市は、しょぼん、と俯いた。今の彼女の頭の中には恐らく『帰る』の二文字以外は存在しないだろう。
 いつの間にか頬を伝っていた冷や汗を拭いながら、この様子なら『肩に手、』の続きを聞かなくて済むだろうと、心の底から安堵する。自分から話を振っていて何なのだが、彼女からの答えを聞く事に妙な恐ろしさを覚えていたのは否定できない事実だった。
 そんなこちらの感情など知らないと言わんばかり、いや、実際知ってはいないのだろうが、市が少しいじけた様子で言葉を紡いだ。
「まだ……神主さんとお話ししたかったかも……」
「……神主か」
 バイト先の神社の所有者の事を思い出し、長政の顔は引き攣った。
 彼女はどうやら神主と、とても仲良くなれたらしい。それは良い事だと思う。人みしりの激しい市の性格を考えれば、赤飯を炊いても良いのではないかと思えるレベルだ。が、そう言っていられるのもあくまで『普通』の範囲に当てはまる場合であって。
 全く神主の姿を見たことが無い……どころか、気配すら感じたことが無い自分には、残念ながら素直に喜ぶ事が出来ないのだった。
 ……神主、本当に居たんだろうか。
 自然と怖い方向に傾く思考に慌てて首を振って、がっ、と市の肩を掴む。
「ともかく、明日は帰るぞ!」
「……うん」
 まだ少し不満そうだったが頷く市を見て、長政は満足しながら頷いた。
 ……その瞬間、肩に強く掴まれたかのような痛みが走ったのは……多分気のせいだろう。







幽霊系と市さんはすっごい仲良しなお友達です。
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