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拍手再録です。



044:君の、となり
 
 
 
 隣に『在るべきもの』が無いと感じる時に抱く感情は、いつになったって慣れる物じゃあ、無いだろう。
 曖昧に鮮明な、諦観と達観とが織りなす、虚無と虚偽が混ざっている様な感情。
 そこに在るはずなのに、無い。それは嘘の様な本当であって、そう理解するたびに胸に穿たれるのは虚であって。それが再び悲しみをドロドロに煮溶かしたかのような思いを呼び起こすのだ。
 そして、今。
 彼は……ライルは、その感情を抱いているのだろうと思う。顔を見れば分かる。
 自分だって一回通った道だし、今もたまに思い起こす感情である。他の誰かならともかく、自分がそれを間違えるわけがなかった。
 ぼうっと右隣にある虚空を眺めて、沈黙を守っている自分の相方。
 その様を見て、彼が見ている場所にいた『彼女』の事をどうか、忘れてやらないで欲しいと思った。忘れてしまえば、本当にそこで終ってしまう。それは、喪失を感じる事よりも悲しくて苦しいことだと思うから。だから覚えていて欲しい。
 思ったそのままを伝えれば、ライルは果たして何と反応をするだろう。
 興味はあったが、結局自分も沈黙を守った。
 亡き人を思う彼の邪魔をしたくない事もあったし、そんな彼を見ていて、こちらも『在るべきもの』の不在を感じて沈み込んでしまった事もあったから。
 ……彼の双子の兄。
 それが、自分にとっての『在るべきもの』。
 失われてしまった彼だけれど、だからこそ忘れまいと思う。過去は風化していくしか無くて、だから繋ぎとめるためには記憶が必要だから。もっとも、機械である自分に人間の様な忘却は無いのだけれど。
 未だ右隣を眺め続けるライルから目を背け、左側に視線を向ける。
 そこに今はここにいない彼を思い浮かべ。
 静かに、ハロは追憶を続けた。

(2010/10/12)
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