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足せていったらいいなぁ…




~自爆スイッチ…~

「何持ってんだよ」
「……!?」
 ヒョイ、と後ろから伸びてきた腕に、今まで持っていた物を取られてしまう。
 それはスイッチ。
 俗に『自爆スイッチ』と呼ばれている物だ。
「はぁ……やっぱな」
 ウイングから取り上げたソレを弄りながら、デスサイズがため息を吐く。
「もっとさぁ……自分の体の心配をな?」
「お前が手当をするから、別に問題はない」
「そういう考え方が問題なんだよッ!だいたい」
 デスサイズはビシィッと指をさして、言った。
「そんなに自爆をしたがるなッ!」
「構わんだろう」
「構うから言ってんの!」
 相変わらず心配性というか。
 ちゃんと、自分の限界くらいは分かっているつもりだ。たまにやりすぎて、一人では帰れなくなって迷惑をかけてしまうこともあるが、それはそれ。普段はそんなに困らせてはいない……あぁ、手当は別として、だが。
「ていうか、毎日毎日自爆しようとするな!週に一度くらいは休もうとか考えろ!」
「休んだら、やってもいいのか?」
「そういうワケじゃなくて……ッ。あー、もう分かった……」
 何やら諦めムードの相棒。
「スイッチは返すけど……今日は一日中ついて回るからな。監視する、監視」
 口で言っても聞かなさそうだし……。
 そう続けるデスサイズは、苦笑を浮かべていた。
 ウイングはそんな彼を見て、笑みを浮かべた。
 分かっているじゃないか、自分のこと。口で言っても聞かない、と。
 ……だが、それは言わないでおく。口にしたら、絶対に凄まじい反論とか文句とか説教とかが飛び出してくるから。

 まぁ、そうなったとしても、別に良いけれど。
 どうであれ、一緒にいることができるのは変わらないから。

(2008/06/08)


~今日の朝食は…~

「うー……悪い、オレ、今日起きれない…」
 いつまで経っても起きてこないデスサイズを呼びに来れば、こういう返事が布団の中から返ってきた。本当に眠そうな声である。
 風邪でないことはデスサイズの死神体質(?)から分かるので、ではこれは純粋に寝不足なのだろうと推測できた。風邪だったら、今頃その菌たちは死滅していることだろうから……死神の名は伊達ではない。
 苦笑しながら、それでもやはり起きてもらわないと困るので、サンドロックは布団を剥がしにかかった。
「ダメだよ。ちゃんと起きないと」
「でもさ……寝たのざっと一時間前…」
「うわ……死神の仕事?よく働くね…でも朝ご飯はもう用意してあるから、冷めないうちに食べないと美味しくないよ?」
「美味しくなくてもいい…後で食べるから」
 ギュッと布団は握られていて、剥がすことが出来ない。
 …ので、サンドロックは最終手段を使うことにした。
「デスサイズ、いつもは君がご飯を作ってるよね」
「あー、うん……あれ?なら、朝作ったの……誰だ?」
「ナタク」
 一瞬の間。
 その後、先ほどまでの抵抗っぷりが嘘のように、勢いよくデスサイズが起き上がった。
「は!?何でアイツ!?」
「何でも、今度はゴッドと料理対決するって。だから練習」
 競うのは闘いの腕だけだと思っていたのだが……違ったのかと、その話を聞いてサンドロックは思った。どうやら話が妙な方向へ逸れて、それでそうなったらしいが。一体、どういう風に逸れたのやら。
 驚いて手の力が緩んでいる彼から布団を奪い去り、ニコリと微笑む。
「凄く珍しいでしょ?行かないと食べれないよ?」
「おまっ……ナタクの話、布団取るためのダシにしたな!?」
「まぁね。でも事実だし……行こう?」
「あー、はいはいはいはい。分かった……本当、お前に勝てる気がしないっていうか」
 眠り続けることを諦めたらしい彼を連れて、サンドロックは部屋から出た。

(2008/07/13)


~朝ご飯の出来は如何に~

「味付けが濃すぎる気が……」
 味噌汁をすすって後、一番最初の言葉がコレだった。
 先に味見をしていたウイングは酷く納得した面持ちで頷く。確かに塩辛かった。味噌とか色々と入れる量を失敗しているだろう、あれは。
 見ればウイングと同じ道を辿ったヘビーアームズも微妙な表情を浮かべていた。サンドロックはデスサイズを起こしに行ったので、被害にはあっていない。運が良いのか、あるいは自ら危機を察知して逃げたのか……前者であることを願おう。
 などと思っている内に、反省会が始まった。
「もっと薄い方が良いだろ。お前、これ食ってみた?」
「一応。味見はしたが」
「で、何も思わなかったワケ?」
「……少し辛いかとは思ったが、どうこうするのも面倒だったからな」
「どうこうしろよッ!」
 全くもって彼の言うとおり。あれはどうにかして欲しかった。というか、自分で変だと思ったのなら出すな。やること及び思考が……あまりに大雑把過ぎである。知ってはいたが、これは改善してもらわなければ。そうしなければ、こちらの身が持たないような。
「とにかくっ……こんなんじゃオレらがこれから困るから、後で特訓するからな」
「後で、というのは?」
「眠いから二度寝してくる。五時間ぐらい経ったら起こしてくれる?」
「分かったよ。五時間後だね。おやすみ」
 笑顔でヒラリと手を振るサンドロック。
 それに手を振り返すデスサイズを見送って、はたと気づく。この調子だったら再び、サンドロックが起こしに行くことになり、五時間後は……つまり昼食の時間真っ直中なので、特訓も何もなく残り三人の内の誰かが作ることになる。そして話の流れ上、実行するのはナタク、だろう。
 それは酷く遠慮したい事態だった。
 どうやったら回避できるかと考え、やはり自分かヘビーアームズが作るしかないという結論に至る。それが可能かが問題なのだが。
 果たして何とか出来るのだろうか……心配の種は尽きない。
 
(2008/08/03)


~昼ご飯飛んで軽く晩ご飯の話~

「大丈夫かー?」
「いや、訊くまでもないよねこれ…」
 床に倒れ伏している三人の仲間達を仰向けにしてやって、お情け程度に布団を掛けて、額に固く絞ったおしぼりを置く。
 寝不足だと言って二度寝をしたデスサイズを起こしに行って、戻ってきてみればこんな状態。ナタクが料理を作るというから、『寝ている彼を起こしに行く』という大義名分を借りた避難をしていて正解だったらしい。というか、慣れないコトをいきなり行うのは無茶を通り越して無謀だろうに。
 結果がこれだと言うから、自分の考えは間違っていないようだった。
「ナタクー、お前、何やったんだよ……ウイングも、ヘビーアームズも、何されたワケ…?」
「それこそ訊いても無駄というか……」
 未だに意識の戻らない仲間たちを一瞥して、何か起こった事柄を推測するための手がかりを探す。台所に行けば一発で分かるような気がしたが、それは怖いので始めから選択肢には無い。人間(MSだけど)、知らない方が幸せなこともあるのだ。
 そして、サンドロックは机の上に一枚の紙を見つけた。おそらくヘビーアームズのダイイングメッセージだろう。いや、死んでないけど。
 近づき紙を手にとって見る。
 そこには。
『カレーにケチャップとかマヨネーズとかドレッシングとかその他諸々とか無理があ』
 とだけ書かれていた。字の歪み具合、『あ』で切れていることから、おそらく料理のもたらした衝撃で朦朧とする頭で書き……力尽きたのだと推測された。
「ナタク……大雑把にも程があるって言うか…どうしてンな物を…」
「新しい味を発掘しようとでもしたんじゃない……?」
 直ぐ横で紙切れを覗き込んで唸るデスサイズに、半ば呆然とサンドロックは答えた。理解しがたいというか……誰かに言われて素直に行ったのか……にしてもやりすぎだと思った。そして、それを食べた三人に心の底から拍手を送りたかった。
「あー、晩ご飯どうする?」
「カレー以外で、ありきたりな物……あぁ、お腹に優しいのね」
「そだな……」
 
(2008/09/07) 


~晩ご飯と後悔と反省とその他諸々~

「オレな、一つ決めた……」
「何?」
 箸を置いて神妙な顔をしているデスサイズを、ナタクは手を止めてから見た。
 その表情からは酷い後悔の念が。
「絶対に、お前らに台所は預けない……ナタクだけじゃなくて、お前らもわりと酷いし。よくて中の中だしな……けど、人並みには作ってもらわないと困るから、特訓でも何でもやってやる…」
「オレも、」
 ことりと食器を置いて、ナタクは呟いた。
「こんなことであの世に行きたくはないからな……」
 見るのはどこか、遠い場所だ。
 思い出すのは……食べ物というよりは兵器という方が正しい代物(ナタク作)である。まさか、適当に色々と入れたらあんなことになるとは……食酢だとか砂糖だとか塩だとか、目に止まった物を全て入れただけで、ああなるとは思ってもみなかったのだ。
 とりあえず反省して、次からは料理の本を見ようと決める。
 そう言った決意をしている隣で、サンドロックがそういえば、と口を開いた。
「さっき、マスターさんから電話来んだけど……ゴッドと料理対決しようとしてたじゃないか。……アレ、止めようってさ」
「あっちも同じような状況に陥ったのか……」
『……特訓、本当に要りそう』
 その報告だけで状況が見えたらしい彼らが浮かべるのは、心からの同情を示している表情だ。……そうか、そんなに酷かったのか…自分の。
 かなり悔しく思い、いずれは再戦をしてやろうとナタクは誓った。

(2008/10/05) 
 

~ちょっとした夢~

 それは朝のこと。
 起きてきたサンドロックはふぁあと欠伸をしつつ、部屋に入ってきたヘビーアームズを見た。何だか眠たげで、まだ寝足りないのだろうな、というのが見ただけでハッキリと分かる様子の彼を。
 まぁ、そんな事は関係なく、サンドロックはニコリと笑って軽く手を振った。
「ヘビーアームズ、おはよう」
「…うん……おはよう…」
 そうして、返ってきた挨拶に固まった…。

「…っていう夢を見たんだけど」
「……お前も何かアレだな…いや、気持ちは分からなくもないんだけどさ…」
 夢の中の話でなく本当の朝、サンドロックはデスサイズと一緒に朝食を取っていた。ちなみに、他の三人はまだ眠っている。ヘビーアームズにサーカスの仕事がないように、今日は特に誰も予定がないので放っている…のだそうだ。ナタクの方は起こせば修行でも始めるだろうが、毎日それではマズイだろうと言うことで強制睡眠中……だとかなんだとか。
 曖昧になるのは、自分は二番目に起きたから。デスサイズから聞いた話しか分からないのだ。いや…話が本当なら、自分は三番目の起床かも知れない。何せナタクは『強制睡眠』中である。強制と言うことは無理矢理と言うことで、つまりは起きていた彼を何らかの手段を駆使して眠らせた可能性は高い。必要な処置とは思うが。
「てーか、三人とも遅くない?ナタクはともかく」
「どういう寝かし方したの?…ウイングはまぁ、起きたら起きるよね」
「ヘビーアームズぐらいなら、そろそろ起きてくるかと思うけど」
「起きたよ…おはよ…」
「うんうん、おは…よ……う…!?」
 思わず二人して、声の聞こえてきた背後をバッと振り向く。
 そこには洗面所に行ってくるとばかりに歩いていくヘビーアームズの姿しか無く……声からも分かっていたけれど、彼しか言葉を発する者はいなかったわけで。
 去っていく背を見ながら、呆然と呟く。
「……あれって正夢…?」
「夢と色々と違うけどまぁ……かもなぁ…」
 
(2008/12/07)


~冬に備えて~

W=ウイング D=デスサイズ S=サンドロック

D「寒くなってきたな……ってことで、作戦会議いくぞ」
S「何の作戦会議?さっぱり分からないんだけど」
D「ちょっとどころかかなり早いけどな……雪が降ったときについて」
W「雪?」
S「……あー、そういうこと」
W「どういうことだ?」
D「雪に竹林に流しそうめ、」
W「分かった。分かったからそれ以上は言うな」
S「だからヘビーアームズはここにいないんだね…あれ?じゃ、ナタクは?」
D「そっちは氷玉とつららが危ないって事で」
S「ゴッドと雪合戦と称して投げ合いかけたんだっけ、それ」
W「ヘビーアームズの、雪の積もっている中で竹林で流しそうめん…というのも大概だが」
D「どっちもどっちだよなー…」
S「とりあえず、それを阻止できれば良いんだよね…できるの?」
D「できるの?ってか、やらないといけない、っていう部類だと思うけどな」
W「特にナタクの方は第三者に被害が出る」
S「ヘビーアームズの方は……ボクらが風邪引くね」
D「どっちにしたって避けないと大変なことになりそうじゃんか」
W「それを事前に阻止しようということか……確かに必要かとは思うが」
D「ん?」
W「止めることが出来るのか?」
S「流しそうめんは…何とかなるよ…ね?」
D「雪合戦はアレか……無理、か……?」
W「あの二人が開始するまでに止めることが出来れば大丈夫、だろうがな」
D「…行けんの?」
W「……微妙だな」

(2009/01/04)

 
~悪夢の実現~

 もう春も近い今日この頃。
 ……ではあるが、やはり、外で、しかも竹林の中で、流しそうめん……というのは些か時季外れというか、自殺行為なのではないだろうか。
 どうしてこのような事態に陥ったのか、その経緯はもはやどうでも良い。問題なのは、現状をどうやったところで改善することが出来ない点だろう。お椀と箸を手に、ウイングは小さくため息を吐いた。あのヘビーアームズの、現在進行形での嬉しそうな顔を見ると、どうしたって文句を言うことも出来ない。
 万事休すとはこの事を言うのだろう。
「じゃ、第一陣流すぞー」
 竹で作ったそうめん専用滑り台の上の方にいるのはデスサイズ。最初は反論していたくせに、いざやるとなるとヘビーアームズの次ぐらいにやる気だ。その次にやる気なのは、実行が決定して直ぐさま竹を手配したサンドロックか。ナタクはこの状況を寒さに打ち勝つための修行の一環だと考えているようなので、やる気以前の問題だった。
 何だろうこの状況はと、ウイングは竹の葉に覆われた天を仰いだ。いつものストッパーたちが今回は止めるどころか状況を作り出す手伝いしかしていない。珍しいこともある物だと、そんなことを思っている場合でもないだろう、これは。
 だが、喩えそうであってもそうめんは食べなければならない。これは今日の昼食であり、食べなければ昼抜きになってしまう。
 箸を持ち直し、目の前を流れていくそうめんへと注意を向ける。
 ……はずだったのだが。
「…オイ」
「ん?どうかした?」
「お前ら…少しは加減しろ」
「えぇ?」
「何故だ?」
『加減してたら食べられない』
 上の方にいる三名によって、ことごとく取られてしまっていた。これでは一番下の方にいるウイングの元に、一本もそうめんが流れ着くことはないだろう。
 流しているデスサイズはどうなのかとチラリと視線をやると、こっそりと流していないそうめんをつまみ食いしているのが見えた。…つまり、このままでは自分だけが昼食抜きという状況に陥る可能性が高いのだ。
 勘弁してくれと、ウイングは盛大にため息を吐いた。

(2009/04/15) 

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