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すっかり寝入ってしまった保護者三人組を部屋に残して、沙慈とルイスは宿から外へと散歩に出ることにした。いくら都で、人間のための街であって、異端に優しくなかったとして、何もしなければ見た目は何ら変わりはないのだから、大人しくさえしていれば問題はどこにもない。
それに、ルイスの気分転換になったらいいと、沙慈は思う。
いくら普段通りに見えても、こんなこと……声が無くなるなんてことになって、気分が沈まないわけがない。時折、少し辛そうな顔をするのが何よりの証拠だ。
そう、それが目的だった……の、だが……
都というのはやけに道が入り組んでいるもので、しかもスタート地点である宿までもがグニャグニャと裏路地を進んでたどり着いた場所だったからか、沙慈とルイスは見事なまでに迷子になっていた。
「ここ……どこだろうね」
「……」
「だよね…分かんないよね……」
首を横に振った彼女を見て、溜息。
やはり、誰か案内役を頼むべきだったのだろうか。だが、都経験者約三名は熟睡中。ちらりと覗いてきたが、ハレルヤの姿も、ティエリアの姿も、どこにもなかった。当然ながら、先に都に出ている他四名の姿も同様である。
まさか宿の店員に頼むわけにも行かないし……と思いながらも、止まっていても仕方がないので進んでいると、ふいに、知った気配を察知した。
この気配は…
「ミハエルとネーナ…?」
「誰か呼んだー?って、あ、ルイスに沙慈。こんな場所でどうしたの?」
「おー、ホントに猫のガキじゃねぇの。迷ったか?」
沙慈の小さな呟きが届いたのか、ヒョコリと角から顔を出したネーナとミハエルを見て安堵の息を吐いて……直ぐに、固まった。
「ふっ…二人とも血がっ…!?」
「あ、これ?」
頬に付いていた血を軽く拭って、ネーナは実際は悪魔だというのに、まるで天使のような笑みを浮かべて言った。しかも軽く。
「今ね、ちょっと狩人ボコボコにしてるの」
「へぇ……って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
あんまりに軽すぎたために危うく聞き流すところだったが、言葉の意味をじっくりと租借してみると……正直、笑えない。人間をボコボコにしているところもだし、何よりそれは『狩人に見つかった』のと異音同義語であるから。その上、異端の身体能力は高すぎるほど高い場合がたまにあるので(ケットーシーはあまり当てはまらない方)、下手をすると勢い余って殺害……ということも有り得るのだ。
それって色々とマズイんじゃ…と慌てて二人が顔を出している角へと向かい、壁の関係で見ることが出来なかった場所を覗き込む。
倒れ伏してそこにいたのは、赤髪の男性だった。涙目になりながらも意識をしっかり保っているところ、割と傷は浅いようだ。
「チックショー……俺は強いんだぞー…」
「あ、沙慈、コイツのことは心配しなくていいから。強いっちゃ強いのかも知れないけど、驚異的なまでに弱いからコイツ。やられキャラってヤツ?だから丈夫なのよね」
「うるせー!俺はなぁ!実戦2000回、ずっと生き残ってきたんだぞーっ!」
「煩いのはテメェだっての」
ガバリと起き上がった人間の頭を力一杯踏みつけ、ミハエルは冷たく言い放った。
完全に沈黙した人間を見ながら、沙慈はコッソリと両手を手の前で合わせて礼をした。せめて、冥福を祈ろう。