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09. 決定的な敗北
「ふぅん……森の中に…ねぇ」
「マリーも大変なのだな…」
あの後、ハレルヤとソーマという二人の以人と刹那たちは、地下洞窟の中で言葉を交わしていた。共通の知り合いがいると言うことで、話はそこそこ盛り上がったが……それでも、ティエリアとライルは二人に対して警戒心を持っているようだった。
それが普通の反応なのだろう。刹那はそう思いながら二人の話す過去のマリーの事に耳を傾けていた。今は殆ど存在しない以人の日常…そう思うと、自分たちと変わらない日常であっても新鮮に思える。
「とりあえず、元気は有り余るほどだから安心しろ」
「そうかい。んじゃ、俺らもそっちは気にせずに勝手に行動すっか」
「だな。思う存分にやってしまおう」
「……何を?」
軽い調子の中に不穏な気配を感じたのだろうか、ライルはスッと目を細めた。
刹那も何かただならぬものは感じたので、黙って彼と同じように二人を見やる。放っておくと……何か、とんでもないことをしでかしそうな気がした。
そんな自分たちの様子に気付いたのか、ソーマは苦笑して大したことじゃない、と言った。
「ただ人間を滅ぼす、それだけだ」
「……!?」
「オイオイ…眼鏡、何でそんなに驚いてんだよ」
座っていた瓦礫の上から立ち上がったティリアを、ハレルヤは呆れながら眺めている。そんな彼らの様子からは……そう、『人間を滅ぼす』というのが当然である、そんな感情が読み取ることが出来た。
その瞬間、刹那はどうして以人が恐れられているのか知った。
以人は人間に似ていようと、全くの別物。以人を人間とするならば……例えると、人間は犬か猫か……そんなところだろう。違うことと言えば、しっかりとコミュニケーションが取れることくらい。
人間は、以人に対して圧倒的弱者なのだ。
「……けどま、テメェらを殺すのは惜しいよな」
「あぁ。マリーに怒られてしまう。……どうする?彼らだけ生かすか?」
「ソレしかねぇだろ」
自分たちの反応に構わず話を進めていく二人の以人。
それを見て、ティエリアがキレた。
「貴様ら……言わせておけば勝手なことを…ッ」
「勝手……勝手だぁ?ハッ…テメェら人間にだけは言われたくねぇよ」
「同感だ。人間は理由もなく勝手を行うが…私たちは違うというのに」
「黙れッ!」
纏う空気が冷え始めた二人と対峙して、ティエリアは火の玉を生み出した。
そして……火の玉は、瞬時に消滅した。
「なっ……」
「火は使うなよな。探してる本が燃えちまうだろ」
衝撃によろめいたティエリアに、火の玉があった方に手をかざしているハレルヤが何も無かったかのように話し掛ける。いや……ように、ではなく、彼らにとっては本当に何もなかったのだろう。ティエリアの魔法程度、彼らにとってはどうということは無いのだ。
ともかく、ティエリアの力が使えないのならば……打つ手はない。
背筋に這い上がる冷たいモノを感じながら、刹那は一歩後ろに下がった。
だが、続いて来たのは反撃ではなく……ソーマの溜息だった。
「全く…私たちの言葉を聞いていなかったのか?殺さないと言っただろう」
「……随分と余裕じゃねぇか…」
「テメェらなんざ、俺らの敵じゃねぇからな。ま、そゆことだ。大人しくしとけよ……その穴の向こうでよ」
ハレルヤの言葉を疑問に思う隙もなかった。
瞬時に刹那たちの足元に出来た穴に呑まれ。
意識は闇に沈んだ。