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12. 世界に蝕まれてゆく身体
「……テメェは行かねぇのか」
「行って欲しいのなら考える」
「ハッ…どうでも良いに決まってんだろ」
ティエリアとライルが去った部屋に、新しい気配が一つ降り立ったのはいつ頃だろうか。先ほどのようにも思えるし、今この瞬間であるようにも思える。ずっと黙って考え事をしていたからそこら辺の時間の流れがイマイチ把握できていなかった。
ともかく、この場に二人……いや、三人目がいるのは事実で。
刹那は体を捩って、後ろ側に立っていたハレルヤと目を合わせた。
「訊くが、あの扉は外に繋がっているのか?」
「あぁ、繋がってるぜ。あの二人は無事外に出やがったから安心しろや」
「……無事に出したのか」
「ん?何だその顔」
てっきり何かしているだろうと思っていたので……少し驚きながらも口を開けば、彼は片眉を上げてこちらを見る。理解できない、という面持ちである。
理解できないのはこちらだ……そう言おうと考えて思い出す。
そういえば、彼は以人なのだ。人間が何をどうしようと関係など無く、簡単に潰すことの出来る存在。
ならば、人間の一人や二人、逃げてしまっても支障はないだろう。
「分からねぇなら一つ解説でもしてやろうか?」
「いや……理由は何となく分かった」
「そうかい。んじゃ、次は俺からの質問だ……どうして残った?」
「訊きたいことがある」
刹那はハレルヤから、ベッドの上に横たわっている彼そっくりの青年へと視線を向けて、問いを発した。
「彼が、お前たちが人間を滅ぼす理由なのか?」
「……何でそう思った」
「何となくだ」
本当にそれだけ。言葉の中に嘘などどこにもない。
ただ……強いて言うのなら、彼が、目を覚ましそうにないと思った事が原因だろうか。
ティエリアとライルが自分を説得している最中も、全く目を覚ます様子の無かった、彼。妙な話なのだ……これは。二人とも結構な大きさの声で話していたし、時間もそこそこあったのだから…どんな人でも普通ならば起きる。
それが起きないというのは。
「……そいつはな、封印されてんだよ」
「封印?」
「そう、封印。人間どものくだらねぇ都合で、な」
「だが……」
吐き捨てるような彼の様子に、刹那は軽く眉根を寄せた。
…以人とは、人間以上。
「人間の掛けた封印など、簡単に解けないのか?」
「解ける。が、解いたらいけねぇんだよ」
「何?」
「コイツはな、『鍵』にされちまった」
寝ている青年を挟んで刹那の向かい側にハレルヤは座り、青年の頬を穏やかに投げる。しかし、表情は苦悩に満ちているように思えた。
そして気付く。ハレルヤにとって彼は、きっととても大切な存在なのだと。
「世界滅亡の『鍵』だ。コイツを連れ去った人間どもは勝手に色々やりやがって……以人の力を、コイツに宿っていたそれを全部解放しやがったんだよ」
「成る程……だから封印して、力の発動を」
「『鍵』としちゃ完全体じゃねぇのが救いだったんだろうぜ。そん時は何とか封印出来たみてぇだがな……今は出来ねぇんじゃね?徐々に完成していってんだ。…蝕まれるみてぇに」
忌々しいぜ。
ハレルヤのその呟きを、刹那は瞳を閉じて聞いていた。