ごた混ぜ旅館へようこそ！ 三日目：21：00

正直、これが一番書きたかった話かもしれないという。

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　その再会は、同じ旅館にいると判明している以上は有り得ないことではないにしても……少々、驚くべき事柄だったかもしれない。
　それでも反応を眉を少し動かすに止めたザンザスと違って、相手の方はこちらを指さして口を何度も開閉していた。可能性があるとあちらも分かってはいただろうに、よっぽどこの再会が予想外だったらしい。
　まぁそうだろうと、息を吐く。
　他の場合はともかくとして。
　まさか、露天風呂で出会うなどとは思いもしないはずだ。
「…知り合い？」
「んーっとまぁ……その…迷子を助けてくれた恩人？」
　あちらはあちらで連れに説明をしているようで、こちらもこちらで説明でもしなければならないのだろうか。横からとても訊きたがっているような視線が送られてくるのだが。この視線を無視しても別に構わないとは思うが、そうするとどうやら延々と視線を送ってくるつもりらしいので…話しておくべきかもしれない。
　というか、訊きたいなら口に出して言え。
「…あちらが話しているとおりだ」
「ボスが人助け？有り得ないって言うかいつ？」
「テメェらが外に出てる間にだ……気配が煩かっただけだ」
「あぁ、成る程ね」
　それでベルフェゴールは納得したのか、ふぅんと呟いて自分と相手を見比べ、そして。
「……ボスの娘？」
「ベル、それはここが男湯な時点で有り得ないと思うけど」
「えぇ？でもすっごく女顔……」
　マーモンの呆れ混じりの言葉にベルフェゴールはどうやら反論しようとしたらしいが、それは途中で遮られることになった。
　理由は他でもなく、飛んできた石鹸が頭にぶつかったからだ。
「……こう言うときは、普通は木の桶が飛んでくる物だと思うんだけどね」
「ったぁ……」
「知るか」
　どうせ手元にあったのが石鹸だっただけだろう。
　チラリと視線をやると、その石鹸を投げつけた本人……つまりは、昨日、迷子になっていたところを結果的には助けてやったことになる相手は、それを投げた後の格好のままで止まっていた。顔はうつむき加減で表情は見えない。
　ふと隣に立っている、丁度肩に付くか付かないか、その辺りの長さの茶髪を持っている連れの方に視線をやると苦笑を向けられてしまった。どうやら、この事態はあちらにとっては日常茶飯事らしい。
　そうしている内にベルフェゴールは復活したのか、バシャンと音を立てながら立ち上がって、湯から上がって体勢を立て直していた黒髪の昨日の迷子の所へとつかつかと歩み寄った。
「ちょっとお前！王子に向かって何てことやってんの！？」
「王子とか何とか知んないっての！そりゃ石鹸投げたのは謝るけどな、毎度毎度こう言うときは何でか女扱いされるオレの身にもなってみろ！」
「はぁ！？何で王子がそんなマネしなきゃなんないわけ？面倒なことをわざわざやるなんて面倒なマネ、誰がやるかよ！」
「ならせめてヒトの気持ちを考えるとかしてみろ！」
「それこそやるわけねーだろ！俺は王子だもん！」
「そんなの理由にされてたまるかーッ！」
　そこそこ静かだった露天風呂の中があっという間に騒々しくなった事に、ザンザスは眉間の皺を揉みほぐした。こうしてみると、スクアーロを残してきたのはまずかったかもしれない。フランをおいてきたのは良かったと思うが。あれがいたら騒動が大きくなりかねない。ちなみにマーモンは既に我関せずの態度を取っている。
　自分でも収拾に努める気など毛頭無いザンザスも成り行きに全て任せるか、と未だに口論を続けている二名から意識を外したところで不意に、直ぐ傍に茶髪のがしゃがみ込んだのを目の端で確認した。
　彼は相変わらず苦笑を浮かべて、ごめんなさいと謝った。
「彼、何かあの顔がコンプレックスらしくって…言われると過敏に反応するんです」
「気持ちは分からないでもないけどね」
　答える気のないザンザスに代わるように、マーモンが嘆息した。
「あの様子だと散々言われ続けているようだし」
「本人も困ってるみたいなんですけどね…というか嫌がってるんですけどね」
「対策なんて取れそうもないしね。大変だね、とだけ言っておくよ」
「それだけでも十分です」
「……時に、一つ訊くけれど」
「何でしょう？」
「あの二人の言い争いはいつ終わると思う？」
「当分終わらない気がしますけれど」
「奇遇だね。僕も同じ」
　二人の話を聞きながら、ということは当分あの二人の言い争いを聞かなければならないのかと、話を聞く以前から分かり切っていた事を思い、ため息を吐いた。
　もう少し入っていたかったが、早々に上がるべきだろうか。それともどちらかを強制的に黙らせるべきか……。
　

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迷子に関しては、二日目：14：00を読んでみたら分かるかと…。
多分、読めると思います、けども。