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久々なんて物ではない、いっそ懐かしいと言えるほどの期間が空きましたが。
チビスターズ設定です、この話。
12.Lサイズ
びろんと、目の前に大きめのサイズの服を広げてみる。
元の状態でも大きかったであろうそれは、小さく縮んでしまった今では尚更大きく感じられる。ズボンとか何もなくても、これ一枚着ていたら全て問題ないのではないだろうかと思えるほどには。
というか、もうそれで良いのではないだろうか。その方が今の状態に合う服を探すという、実に面倒な事態を続ける必要もなくなることだし。そうだ、間違いなくそれが一番最良の選択肢……
「刹那ー、次これ着てくれない?」
だがしかし、そんな刹那の思考は見事に打ち砕かれた。直ぐ傍から聞こえてきたクリスティナの声によって。それから、彼女が持っている子供の女の子物の服の存在によって。
次はこのヒラヒラ五割り増しと銘打たれていそうな服を着なければならないのだろう。さっきも似たような物だったのだが、こちらはそれに輪をかけて酷い様に見える。というか男をこんな風に着飾って何が楽しいというのだろう。
色々と釈然としない思いを抱きながら、とりあえず答えは分かり切っていたが、問わずにはいられなかった問いを口にする。
「…拒否権は」
「当然ながら無いわよ」
「…やっぱりなのか」
「とーぜんっ!こんなチャンス滅多にないんだから!」
テンションが上がり気味のクリスティナを見ながら、刹那は深々とため息を吐いた。こちらとしては、出来ればこんなチャンスは来て欲しくなかった。来たとしても、別の誰かの方に言ってくれれば良かったのだ、こんな事態。
手に持っていたLサイズのシャツを手放しがたく思っていると、上からそれをひょいとつまむ手。当然ながらクリスティナの物だ。
その手からの力に、刹那は思わず反抗した。
「…ねぇ刹那」
「何だ」
「その手、放してくれない?」
「断る。俺はこっちの方が良い」
「可愛く無いじゃない!」
「別に可愛さを求めてはいない」
「折角こんなに可愛いのに!?勿体ないじゃないの!」
「可愛いと言われて喜ぶ男がどこにいるんだ?」
「そのくらいサービスでどうにかしてくれたって良いじゃないの!」
そんな無茶な、と思ったが、クリスティナのあまりの剣幕に刹那は何も言い返せなかった。何か言い返したら倍返しが来そうな予感がしたのである。
そう言うときは大人しくするべきだ。
……が、だからといって別に現状で唯一の救いである、Lサイズのシャツについては諦めたわけではない。仮にこの場を逃げ出したとしても、着ることが出来る物はこれくらいしかないのである。
一歩も引かないという思いを視線に込めると、たちまちクリスティナはむぅっとした表情になった。一筋縄ではいかないのだと理解してくれたようだ。手を引いてくれることはどうやら、無いようなのだが。
「何が嫌なのよ。可愛くしたって何も問題ないでしょ?」
「実害はないかもしれないが、精神的にきついぞ」
「我慢すればいいじゃない。どうせこれから先、こんなことなんて無いだろうし」
「そう何度もあってたまるか…」
戻れたとしてもまた小さく縮んで、クリスティナのような誰かに着せ替え人形よろしく扱われる……というのは。
大分、遠慮したい事態だった。
その時に訪れそうな悪夢の想像を頭を振って打ち払い、改めて、彼女が持っている洋服を見やる。
……やっぱり着たくない。拒否権が無かろうと抵抗したくなるわけだ。
どうやって逃げだそうかと考え倦ねている間に、ガシリと捕まれる、肩。
しまったと思ったときにはもう遅い……手遅れになっていた。
「これくらい付き合ってくれるわよね?」
「……仕方がない」
「流石刹那!話が分かるじゃない!」
話が分かるというか、いい加減に押し負けたということなのだけど。
そう思ったが、刹那はそれを口にするのは止めた。言ったところできっと、目をキラキラさせて次の、その次の衣装……もう服と呼ばれるのも憚られるそれらを選んでいる彼女の耳には、きっと届かないと思ったから。
変わりにこんな事態になってから何度目かのため息を吐いて、持っていたシャツから手を放した。こうなってしまえばこれも不要だ。
別名・刹那の受難
着せ替え人形よろしく、っていう場面があったので、そこを書いてみました。