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それでよい人はどうぞ。
04.サイン帳
「ミハエル……自分の名前くらい上手に書こうよ……」
「うっ……うっせぇなっ!これでも俺は本気なんだよ!」
いや、それは見たら分かるけどね。
思ったけれど、それは口に出さず、黙って彼の『練習帳』を手に取った。
……事の始めは何だったか……そうそう、トリニティ三兄弟の字を見せてもらった時。
ヨハンの字はきっちりとしていて丁寧。ネーナの字は丸みを帯びていて可愛らしい。
参考がてらに言うと、刹那のは教科書通り。ロックオンのは綺麗。ティエリアのは……あれは完璧といっても過言ではない。ハレルヤのは乱雑に書くくせに、学校の先生のように見やすい字だったりする。アレルヤ自身のは……多分、普通。皆にそう話したら「違う」と、言われてしまったけれど。彼らからすると、自分の字は優しげ、なんだそうだ。よく分からないけれど。
そして、名前の挙がっていなかったミハエルはというと……
「もうちょっと丁寧に書けないかな……」
「……これで精一杯だ」
読めなくはないが、結構、見にくい字だったりする。
何度もソレを直そうと、ヨハンは色々と画策していたらしいが……どうにもうまく行かなかったそうだ。ゆっくりと教える時間もないし、ミッションが無いときでも、彼には家計的な話もあったりして……というのを聞いた。
一時は、通信教材の硬筆口座でも取ろうかという案も浮かんだそうだが……絶対に本人が続けないという確信があったので、実行はとどまったらしい。
そんなこんなで……結局、今からしばらく前に、その字をアレルヤが目撃してしまった、というわけだ。
「あのね……こんなんじゃ、これからが大変だよ?」
「とりあえず、そこら辺は分かってるつもりだぜ…」
その言葉は嘘ではないようで……肩を落としてションボリとしているミハエルがちょっと、不憫に思えなくもなかった。
だけれど、こればかりはしっかりと直してもらわないと。
…見てしまった日、ヨハンがもう隠す必要はないとでもいうように、アレルヤに相談をもちかけてきた。
……実に深刻そうな顔だったので、自分も真剣に話をして、それで『練習帳を作ろう』ということになったのだ。
内容は酷く簡単。用意した小さなノートに、彼の名前を何回も書いてもらうだけ。それで、定期的にヨハンかアレルヤがそれを見て、どこを直すべきか、どこが良くなっているかを指摘するという、実に単純なものだった。
で、方針を決めるだけでなく、どうしてそこまでアレルヤも関わっているのかというと、それはヨハンが頼んできたからだった。確か「その方がミハエルもやる気を出すでしょう」と言っていたが……どういう意味だったのだろう。
まぁ、そういうわけで普段ならば絶対、ミハエルがいたら表に出てくるハレルヤも、事情を説明してあるから大人しいもの。現在は彼らしく、身の内でゆっくりと惰眠をむさぼっているようだ。
「ここを崩しすぎなんじゃないかな。あと、逆にここは……」
ミハエルに『練習帳』を返しながら、直した方がいいところを指摘すると、彼は真面目な顔で自分で書いた文字の羅列を見ていた。
……これが、やる気が出ているっていう証拠なのかな?
などと思っていると、ミハエルがノートを閉じて、ぐっと伸びをした。
「つーかさぁ……どうしてこんなの、できなきゃいけないわけ?」
「え?」
「できなくてもツヴァイは操縦できるぜ?」
いやまぁ、それはそうだろうけど。
「生活もあまり問題はねぇし」
確かに、そうかもしれないけれど。
「……でもさ、サインとかは自分でしないといけないから」
「戦ってばっかだから、そんな場面にゃ出会ったこともねぇよ」
「ん……」
事実名なけに、そう言われると何も言い返せない。
けれども何とか使いそうな場面を考えてみて、一つだけ思いついたから挙げてみる。
こんな状況こそ、あり得ない気もするけれど。
「……婚姻届とか?」
「あ、そういやそれがあったな」
しかし、返ってきたのは納得の声。
少々、拍子抜けする。まさか肯定が返ってくるとは……。
だけれど、ということは、彼にも誰か結婚したい相手がいると言うことだろうか?
……まさかネーナ、とは言わないよね。
彼のシスコンっぷりを見ていると、あながち冗談では済ませられないのが何ともいえないところなのだけど。
まぁ、相手が誰かというのはおいておいて、とりあえず今まで以上にやる気になってくれたようで、それがアレルヤとしては何とも嬉しいものだった。
サイン(練習)帳
こじつけ……あははは。
婚姻届のアレは、相手はそりゃ……このサイトですから、ねぇ?