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マリーさんが来てしばらくして、の話。
09.誰でもいい
どうしてと、思うことがある。
それは、目的を達成してしまった後だと尚更に思うような考えで。
「ねぇ、ティエリア」
「どうした?」
「どうして、僕はマイスターを続けていられるんだろう?」
だからだろうか、ふっと、言葉にして零してしまっていた。
その時、傍にいたのはティエリアだった。マリーは今は別の所にいる。一緒にいることが多いからといって、何も四六時中ずっと一緒というわけではないし、そういうわけにもいかない。自分たちは違う器に心を宿すのだから。
マリーが傍におらず、いたのが昔からの仲間であるティエリア。
こんな状況だったから、ついつい零してしまったのかもしれない。
「…何故、そんなことを訊く」
「だって、僕は脳量子波が使えないんだよ」
思えば、助け出されたときからこの疑問はつきまとっていたような気もする。昔からの仲間だから、なんて理由でマイスターを続けられるほど現状は甘くないだろうし、もっと別の有能な同志だって探そうと思えば見つかるはずだ。たとえ以前より規模を小さくしていても、CBはそれでもある程度のネットワークを有しているはずだからだ。
けれど、その時はその疑問を口にして、納得されるのが怖かった。納得されてしまえばガンダムに乗ることは出来ない。つまり、マリーを助けに行くことさえ出来ないと言うことだったから。
そうはいっても時間は経つもので、今はそうでもない。もちろん戦う理由が消え去ったわけでもなく、戦いから逃げてしまいたいと思い詰めているわけでもない。だからこそ、口にした。
何という自分勝手な行動だろうと自嘲の笑みを浮かべつつ、どうなの?とアレルヤはティエリアに問いかけた。
「僕は、今の僕は足手まといだ」
「……確かに」
くい、と眼鏡を押し上げてティエリアが呟く。
「今の君より有能な人間は何人もいるだろうな」
「だったら、」
「しかし、だ」
す、と視線が、合った。
「我々はそれをしないだろう。僕がそれを言い出さないように、刹那もそれを言うことはない。ライルの場合はよく分からないが……古参のメンバーも、恐らく同様に言うだろう。その様なことは気にするな、と」
「…何で?」
「誰でも一緒だからだ」
きっぱりと言い放って数秒後、ティエリアは今の言葉が不適切だと思ったらしい。ハッと我に返ったかのような様子を見せた後、慌てて弁明の言葉と思われる物を言おうとした。
まぁ……した、というのはつまり、出来なかった、ということであり。
簡単に言ってしまうと、ティエリアは。
舌を、盛大にかんでしまったのである。
しばしの、沈黙。
「…」
「……だ…大丈夫かい?」
その後に恐る恐る声をかけてみると、がくり、とティエリアは膝をついた。
「僕としたことが……」
「ま…まぁあのさ、ほら、人間失敗ってあるよねっていうことでどうかな」
「俺は僕は私は……」
「ティ……ティエリア、ところで、その…何を言おうと?」
慰めは変な方向にしか事態を持って行かないと悟って、アレルヤはとりあえず話の方向転換をすることにした。そうしてしまえば立ち直ってくれるかもしれない。こう言うとき、ハレルヤがいたらもっと別の案を出して…ティエリアにとどめを刺していたかもしれない。そう考えるとハレルヤの不在は現状においては良いのかもしれないが、それでもハレルヤを思いだしたと同時に感じた痛みは本物だった。
しばしの寂寥に身を浸している間に、ティエリアは復活したらしい。
よろよろと立ち上がって、壁にもたれた。それでも、まだ衝撃はさめないようだ。
「…あ…あぁ、そうだったな…つまりだな、僕が言いたいのは、誰でも一緒ならば、僕らは絶対に君を選ぶと言うことだ」
「…えっと?」
「選択の余地があるならば、どうでも良い誰かよりは、君の方が断然良い、ということだ」
あまり何度も言わせるなと。
ほんの少し頬を染めて言うティエリアに、アレルヤは笑んだ。
「ティエリア、顔赤いよ?照れてる?」
「なっ…こ…これは幻覚だ!」
「いや…幻覚は無理あると思うんだけど」
「ならば何と言えと!?」
「…えぇと、何だろう」
だって仲間だものね。