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実際にこの朝食の風景を考えてみると、結構あり得ないよね…っていう話です。



「私は学校に行きますけれど……お二人はどうするんですか?」
 朝食の席にて。
 味噌汁を啜っているところでそんな事を問われ、静雄はとりあえず椀と箸を置いた。
「とりあえず今日は一日中仕事があんな。……となると、コイツは仕事中も連れまわしときゃ良いのか?」
「はい…お願いします。出来れば目を離さないでください」
 ぺこ、と杏里にお辞儀をされ、ほんの少しむず痒い感覚を覚える。
 こうも真っ直ぐと『お願い』をされるというのは、滅多にない事だった。そもそもキレずに話せる相手が少ないわけだし、これは当たり前と言えば当たり前かもしれない。
「…まぁ、出来るだけやってやるよ」
「…ありがとうございます。えっと…それで…?」
「俺は、ま、今日は情報を普通に集めるつもり。つまり仕事」
 顔がガーゼや包帯や湿布などで覆われてしまっている情報屋は、非常に不機嫌そうに口を開いた。視線は問いかけた人物の方ではなくて、臨也をあのような状態にした妖刀の方に向けられている。……いつもならここで、あるいはその前の時点からキレる気がするが……今日ばかりは何だかそんな気分にはならなかった。
 ここまで理不尽に可哀想な目にあっている臨也を見るのが初めてだからだろうか。
 見たらせいせいするかと思っていたが、実際はそんなことも無かった。
 …とにかく同情しよう。
「じゃあ手前は帰るんだな」
 しかし、それを彼に伝える気は全くなかった。そんな事をしたら付け上がるし、たまには痛い目を見るべきだと言う気持ちも、間違いなく同時に存在していたから。
 ただ、純粋に「ざまぁみろ」と言えないだけである。
 そういうわけで、いなくなってくれるのならば万々歳だと思ったのだけれど。
「まさか。そんなわけ無いでしょ」
 …あっさりと、そんな希望は打ち砕かれるのであった。
「……仕事、するんじゃなかったのかよ」
「もちろんするよ?でも、別に同行してちゃ出来ないわけじゃないし」
「でも単独で動いた方がやりやすいんでしょう?」
 と、今まで黙々と食事を続けていた罪歌が臨也を睨みつけた。
「それなら私たちと来るのは貴方にとってマイナスだわ。全人間を愛する私としては、そんなの貴方のためにならないって、助言してあげたいけれど」
「おあいにくさま。その程度、俺には何の問題も無いんだよね。支障なく出来るよ、仕事。…っていうか、実は今日は仕事やんなくても良いかなって思ってるし」
「はぁ?情報はナマモノだとかいつも口にしてる野郎が何ほざいてんだ」
 仕事をすると言っていた口が、今度は仕事をしないでも良いと言う。
 その事に呆れながら口を開くと、だって、と臨也は答えた。
「そーいうの置いておいても…ねぇ?」
「…だから『ねぇ?』って何だよ」
「シズちゃんは分からなくても良いよ。説明したって分からないだろうし。でも、もしもの時を考えてみたらさ、俺が一緒にいた方が安全性は増すと思うんだけど?」
 言われて、考えてみる。
 自分だけでも十分に大丈夫だろうし、仕事中は上司も一緒だからもうちょっと楽になるだろうと、考えていたけれど。
 そこに臨也を投入すると。
 …………
「……厄介事が引き起こってる状況しか思いつかねぇ…」
「やだなぁ。俺だってたまには自重するよ?」
 どうやっても最悪の状況しか浮かべる事が出来ない頭を抱えながら呻くと、あははと気に障る類の笑みを浮かべて臨也はパタパタと手を振った。
 酷く信用ならないと思ったが、もう…何も言わない事にした。
 来ると言ったら彼は絶対に来る。ならばどこか適当なところで殴って気絶させてごみ収集場所にでも放りこんでおけば良い。口でどうにもならないのならば、行動を起こして除外するだけである。
 まぁ、いつもならばここで殴りつけて除外しているはずだけれど。
 けれど……今朝のあれは本当に酷かったから。
 あとちょっとだけなら見逃してやっても良いだろうと、いうか……今この状況で手を出すのはとても憚られる、というか。つまりはそういうこと。
 案外、同情と言うのは人の怒りを殺す物なのだと今更ながらに知る。
 新しい発見だな、なんて思っていると、いつの間にか食器を手際よく片付け始めていた杏里が口を開いた。
「じゃあ…みんな一緒に出て……帰ってくるのは何時頃になりますか?」
「あ、今日は午前やって昼休んでまた夜って流れだからな……夜の集金に行く前にコイツ置きに来る。明日の事は昼間に決めときゃ良いだろ」
「え!?私、ずっと静雄の傍にいたいのに!そのためなら徹夜も大丈夫よ?」
「夜はよく寝ろよ。中身は知らねぇけど体はガキなんだからな」
 不満をこぼす罪歌の頭にポンと手を置いてやると、彼女は不貞腐れた様子を見せながらも黙り込んだ。どうやら今のところは納得してくれたらしい。






臨也への信用が皆無なのは当然ですよね。
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