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仕事中の話です。
怒り……それも瞬間的な物ではなく、永続的である物を鎮めるのがどれ程までに難しい事か、長らく忘れていたような気がする。
まぁ、怒りなんて覚えた端から次々と吹き飛ばしていったから、それも当然だが。
「静雄、この人は愛しても良いのかしら」
「あ、そうそう、シズちゃん、次に回る人はこの時間は家じゃなくて『お店』にいるよ」
しかし一体どうすればいいのだろう。ここでキレてしまったら尊敬できる上司に迷惑をかけてしまうし、何より今回は『キレる事が出来ない』状況が出来上がっている。罪歌という一方的だろうと愛情を伝えてくる相手に対してキレる事は難しいし、臨也相手にさえ今日という日ばかりは……無理なのだ。無料の情報提供という手段で、一応仕事の役に立っているという事実は間違いようがないのだから。
だが、それでも、怒りと言うのは湧き出て溜まっていくものであり。
それを噴火しないようにと必死に押さえながら思う事は、いつになったら臨也を殴る事が出来るだろうか、というただそれだけだった。
ただでさえ大嫌いで顔を見るのも嫌で存在自体が気に入らない存在が四六時中、傍にいるのだ。思考がそちらに偏ってしまおうとも不思議ではないだろう。
故に。
現状というのは、静雄にとって悪循環を引き起こすだけの状況だった。
「ったく…」
「あっれー?シズちゃんどうしたの?」
「…!」
頭が痛いなんて思っていた矢先、その原因が突然声をかけてきた。
思わず背筋がピンと伸びる。
その様を愉快そうに眺めながら、誰が見たって作りものだと分かるような『心配している顔』を作り出し、首を傾げた。
「疲れた顔してるけど…どうかしたの?俺で良かったら相談に乗るけど」
「……っ」
…あぁ、分かった。良く良く理解した。
こいつは全部分かって、尚且つこうしてちょっかいを出してくるのだ。
つまりそれは……と、思い至って。
プツン、と、何かが切れたような音がした。
「それとも…相談できないようなこ…」
「人が…無理だと分かってて、」
臨也の言葉を遮って、静雄はその名のごとく静かに、言葉を紡いだ。
目の端で、罪歌を小脇に抱えて退避するトムの姿を確認しながら。
「それでも耐えようと頑張っている時によぉ…」
「ん?」
そろそろ不穏な気配を感じ始めたのか、臨也がやや眉を寄せた。
けれども、まぁ。
手遅れである。
「それを邪魔しようとするヤツは間違いなく悪者だよなァ?ってことは、だ。……そいつを俺がぶっ飛ばしたところで、誰も文句は言わねぇよなァァァァァッ!?」
叫んで静雄は、すぐ傍にあった道路標識を引っこ抜き、そのまま横方向にフルスイングした。当たり前だが、その先には標的たるノミ蟲がいる。
しかし臨也は薄く笑っただけで半歩下がり、それだけだった。
そして、それだけで道路標識は空振る。
「ダメだよ、シズちゃん」
人を馬鹿にしたような笑みを浮かべ、臨也はコート袖口から取りだしたナイフを握った。
「公共物は大切にしないと」
「いぃーざぁーやぁぁぁぁっ!」
「わっ、と」
紡がれた言葉にカッとなって投げた道路標識をあっさりと避け、臨也はそのままこちらの懐に潜り込んで来る。
それは一瞬の話。
突然の事に驚き止まるこちらに対して、にぃ、と気味の悪い笑みを浮かべて、彼の手に握られているナイフがギラリと輝き、それから。
「とうっ!」
朝と同じように…臨也は飛び蹴りによって吹っ飛ばされた。
しかも朝より盛大に。
……もしかしたら室内だったから、罪歌も多少は遠慮していたのだろうか。
地に伏しうつ伏せになっている彼の頭を靴の裏で踏みつけ、ふふんと彼女は笑う。
「貴方の好きにはさせないわ」
「…っの愛狂い」
「あら、それ褒め言葉よ、同類さん?」
「…本当に俺、アンタがいなくなれば良いと思うよ」
「奇遇ね。私もだわ」
踏まれる側と踏む側のやりとりを呆然と聞いていると、何時の間にやら隣に立っていた上司が、実に珍しいものを見る目つきでその二人…というか、踏んでいる方を見ていた。
「静雄、あのお嬢ちゃんは誰なんだ?」
「えっと……妖刀っすかね」
「何だそれ」
トムは笑った。きっと冗談だと思ったのだろう。
罪歌はことごとくに臨也と静雄の接触を断とうとしているのかもしれない…。
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