平和島静雄孤立作戦

静雄が出てこないです。情報屋組のお話。

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「平和島静雄孤立作戦？」

「そうそう」

　突然雇い主が言い出した言葉を反復する様に呟くと、彼はとても満足そうに頷いた。

「いやさ、どうやったらシズちゃんを弱らせる事が出来るかなーって考えてさ、思いついたのがアイツを孤立させようって事だったわけだよ」

「つまり作戦名に捻りは一つとして存在していない、と」

「それはそうだけど……別にそんな所にツッコミを入れて欲しいわけじゃないんだけどな」

「じゃあどこに突っ込めばいいの」

「どこにも突っ込まなくても良いんだよ」

「ふぅん……そう。で、その捻りのない作戦名を付けた作戦の内容って何なのかしら」

「……君は本当に人の話を聞かないね」

「貴方にだけは言われたくないわ。それで？」

　どうでも良いと思いながらも促すと、やや不機嫌そうな表情を彼は浮かべた。おおかた、興味津津と言った様子で問い返されるのを期待していたのだろう。そんな事は作戦名を反復する前から何となく分かっていたが、だからといって自分がわざわざのってやる必要性はどこにもない。

　最終的には望み通りの結果を求めるのを諦めたのか、肩を竦めて彼は口を開いた。

「シズちゃんが人にあの力を恐れられてる事は知ってるよね。それをアイツは知っているから、他人と距離をとったりしてるわけなんだけれど……何にでも例外と言うか、物好きはいるわけなんだよ。新羅とか運び屋とか、今の仕事の上司とか……言うまでも無いけれど、弟君とかね。他にも、物怖じせずにアイツに話しかける奴は、高校の時と比べると割と増えた気がする」

「確かにそうね」

「そこで俺は考えたわけだ」

　気のない返事をものともせず、先ほどの不機嫌さを全て払拭した明るい笑顔を浮かべ、彼は両手を大きく広げた。いちいちオーバーリアクションなのが少し鬱陶しいと思ったが、言ったところで変わらないだろうと思い、口を閉ざす。代わりに心の中で一言だけ呟いた。いい加減に死ねばいいのに。

「随分と増えたあの物好きたちをシズちゃんから奪い取ったらどういう結果が待っているんだろう、とね。そうして導き出した結論と言えばつまらない物だったんだけど、アイツにそれはとても有効ではないのかと言う事だったんだ！」

「なら貴方、何で今までやらなかったのよ」

　そのくらいの事、既に出会ったころから今という状況に至るまでに、流石に一回くらいは思いついているだろうに。

　呆れを含ませて息を吐くと、雇い主は椅子を回転させながら、だって、と言う。

「気乗りしなかったんだよ」

「と言う事は何？今回も気乗りしないのかしら」

「いやさぁ、何故だか今回は気乗りしちゃって」

「……相変わらず良く分からないわね、貴方」

「うん。今回ばかりは俺も自分が分からないから、その言葉には頷いておくよ」

　ぴたり、と椅子の回転が止まる。

　それを眺める波江の視線の先で、臨也は立ち上がった時の勢いを活用して横に一回転して、それから窓から外の風景へと体ごと顔を向けた。

　表情はもう、見えない。

「一体何でだろうなぁ……うん、本当に不思議だ。やっぱり人間って面白いよね。自分と言う存在の事さえ完全には理解できないんだ。自分自身の事なのに！この奇妙さが人の魅力の一つだと俺は思うね」

「貴方の持論なんてどうでも良、」

「ただ、一つだけ」

　波江の言葉を遮るように、彼は言葉を繋いだ。

「不愉快さだけは、理解できているんだけどね」

「……不愉快さ？何よ、それ」

「さぁ？分からないけれど、それがそこにあることだけは事実なんだ」

　分からない。と彼は再び呟いた。

　外を向いているから顔は見えない。ガラスもまだ鏡の役割を果たしていない。

　しかし、今なら彼の表情を当てる事が出来る気がする。

　彼は……折原臨也は、きっと。

　何の感情もそこには浮かべていないのだろう。

「波江はどう思う？どうせ分かりっこないと思っている上で訊くけれど、何で俺はこんなに不愉快な気持ちを抱いているんだろう」

「分かりっこない、って前置いてから尋ねるなんて、本当に人を舐めてるわね」

「そんなことないよ。でも分からないだろ？」

「分かるわよ」

「……へぇ？分かるんだ。なら言ってみなよ」

「簡単な話じゃない」

　今と昔で違う事。

　なおかつ、この計画を実行しようとする要因となりそうな事。

　それは。

「貴方、平和島静雄の周りに人が増えすぎたのが嫌なのよ」

 

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孤高の獣に気高い孤独を。
…みたいな、自分勝手で迷惑な臨也さんでした。