水曜日の物語 ③不慮の到着

戦闘後のお話。たどり着いた先は、みたいな。

---

　人質を使って静雄を倒そうとか言う馬鹿者たちに灸をすえていた先ほどまで。

　その行動についての評価はというと…時間を随分と無駄にした、だった。

　全て罪歌に任せて自分は去ると言うのを一度は考え、けれど放っておくのは愛すべき人間たちにとってマイナスでしかないと思いなおした事は、間違いではないと思うけれど。しかし、時間が無駄になったというのも間違いではなく。

　はぁ、とため息をついて、臨也は罪歌と共に池袋の街の入り組んだ路地裏を歩いていた。

「っていうかさ、もっと早く全員叩きのめせなかったわけ」

「文句言わないで。貴方は途中から何もしてなかったじゃない」

「飽きたんだよ。お前だって満足だろ？子供増やせて」

「満足だけれど、それは子を増やした事ではなくて愛せた事についてよ」

「あっそ。流石は愛狂い」

「褒めてくれてありがとう」

「どういたしまして。褒めてないけどね」

　答えながら、やっぱりこいつは嫌いだと再確認した。

　流れでうやむやになっていたけれど、やっぱりこの刀はへし折っておくべきだろうか。

　その場合、どうやったら彼女は死ぬだろうかと、ふと疑問を覚えた。彼女の首を落とせば死ぬのだろうか。それとも…彼女の宿すあの日本刀を折らなければ死なないのか。あるいは園原杏里の持っている日本刀を折れば良いのか。

　全て実行できたら良いのだけれど、罪歌も強いと言えば強い。先ほど、チンピラたちを叩きのめす姿を見ていたからそこは確信を持てるし、ならば一つ一つを順に実行している間に、逆に倒される可能性だって否定は出来ないのだ。

　行動を起こすのは、彼女を抹消する方法を知った後でも良いかもしれない。

　そんな事をつらつらと考えていると、ちょいちょいと服の裾をひかれた。

「…ねぇ、折原うざや」

「だから俺は臨也だって…で、何だよナマクラ刀」

「ここ、どこ」

「どこって……あれ？来良？」

　見渡せば、そこは先ほどまでいた薄暗い路地裏とは完全に違う、明るく開けた場所であり……高校の校門の前でもあった。

　校門にある文字は、ここが来良学園であることを示している。

　見れば、どうやら体育の時間らしい。体操服を着た高校生と思しき少年少女が柔軟体操をしたり走っていたり……ちょっと離れた影になっている場所では、お喋りに興じている不真面目な生徒もいる。

　そして、真面目に柔軟体操をしているメンバーの中に、見知った顔を見つけた。

「あ、帝人君」

「杏里もいるわね」

「正臣君もだね…っていうか、正臣君は帝人君たちとは違うクラスじゃなかったっけ…」

　合同の授業、ということなのだろうか。

　あるいは…抜け出して紛れ込んでいるのか。

「……まぁ、別に何でも良いけど」

　どういうことか分かりはしなかったが興味も無かったので、そのまま気にせず去ろうと臨也が足を踏み出そうとしたところで。

　さらりと、罪歌がとんでもない事を言い出したのである。

「折角だから、ちょっと杏里に声をかけてくるわ」

「え？」

「そういえば私、昨日は家に帰っていないもの。もしかしたら不安に思ってるかも」

「いや、見た感じ心配も何も無さそうだし……不安でもなさそうだけど。多分そこら辺はシズちゃんが何か言ってくれてるんじゃない？」

「静雄…流石は私の愛する人ね。…でも、」

　罪歌はそう言い。

　臨也はその『でも』に嫌な予感を覚えた。

　果たして、そういう想像は当たるのである。

「一言くらいやっぱり要ると思うの。だから行くわ」

「ちょっと待、」

「待たない」

　こちらの制止を聞きもせず。

　最悪の妖刀は、ひょいと門を乗り越えて学校内に侵入した。

　それを慌てて追いかけようとして……思いとどまる。

　良く考えたら……杏里がいるならば、目付役としての自分という存在は必要無いのではない気がする。それならあとは全部彼女に任せて、自分は新宿に帰るなり、静雄を一人で探すなりすれば良いのではないだろうか。

　けれど、その考えは直ぐにとある事実に打ち消された。

　まだ、彼女たちは授業中。それに生徒でもない罪歌を学校内に連れていけるワケも無いし、ここで自分が帰ったら彼女が普通に野放しになってしまう事になる。

　それはまずい。

　自分の愛してやまない人間たちが危険にさらされる。

「…仕方ないか」

　諦めて、臨也も学校に侵入するべく、校門に手をかけた。

---

罪歌はひたすら直行型だと思う。