式ワタリによる、好きな物を愛でるブログサイト。完全復活目指して頑張ります。
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CB家設定イノベイターズです。
12.飴色たまねぎ
「今日の夕飯は何にしよう……」
「だから焼肉とかで良いじゃん」
「それはこの間やったよ……」
「じゃあ、すき焼き」
「それもだよ……」
「あーあ、お兄ちゃんに似ちゃったのかしら……アニューもすっかり否定好きになっちゃったわけね。昔の可愛いアニューはどこに行ったのやら」
「……別に否定好きなわけじゃないし普通にこれは否定する所!」
やれやれと肩をすくめるヒリングに対してひとしきり小声で叫んだ後、ぜーぜー……とは流石に言わなかったが、若干疲れた様な気分を抱いて、アニューはため息をつきながらカートを押す。
ここはスーパーマーケット。しかも大型では無く、地域に一つあるくらいの中くらいの大きさの。つまり家の中では無く、その上、わりと良く合うご近所の人たちの視線にさらされる様な場所である。
だからこそ、先ほどは小声で叫ぶと言う器用な芸当が必要になったのだった。
大声を出したら『そう言う人』だというレッテルを貼られてしまう可能性があったから。
もっとも……そんな事が起こらないと漠然とした確信を抱けるくらいには、アニューは近所の人たちと付き合っていた。大声を出したところで微笑ましそうに眺められるだけで済むだろう。そしてヒリングもわりとこの辺りでは有名だから、微笑ましさに温かなクスクス笑いが追加されるだけで、問題は起こらない気がする。
……それもちょっと恥ずかしいのだけど。
何で一緒に来ると言うあの言葉に頷いてしまったのだろうかと、つい数十分前くらいの自分の行動を悔みつつ、ぽいぽいと野菜コーナーに置いてある物を籠の中へと入れていく。当然、その前の新鮮さチェックも欠かさずに。
「お好み焼きは?」
「それはこの間、ブリングがデヴァインと食べに行ったって言ってたよ?」
「良いじゃんそのくらい」
「でも、出来れば被りは控えたいの」
「ふーん……なら、たこ焼き」
「お兄さんがお土産に買って来たの、食べなかったっけ」
「あ、そういや食べたかもねー。ラーメンは?」
「一昨日食べたよ、お昼に」
「ハヤシライス」
「……あ、それは最近食べてないね、そういえば」
丁度手に取ったタマネギとヒリングの顔を見比べて、頷く。
「じゃあ、今日はハヤシライスで良い?」
「焼肉とすき焼きダメっていわれちゃーねー……もう何でも良い」
「そのわりには色々と案が出てたけど……」
「良いじゃん別にそんな所に突っ込み入れなくても!」
がおうと叫ぶヒリングには、小声で叫ぼうと言う試みが感じられなかった。
それを聞いてマズイ、と思う前に耳に届く軽やかな笑み。
あぁ、やっちゃった。なんて思って少し落ち込んでいると、落ち込む原因を作りだした彼女が、あ、と素っ頓狂な声を上げた。
「リジェネじゃん」
「……え、リジェネ?」
ば、と顔を上げると、そこには確かに非リングの言う通りリジェネの姿があり。
どうやら先ほどのクスクス笑いは彼の物らしいと分かり、アニューは心の底から安堵した。ご近所様と身内にされるのでは、クスクス笑いに対して抱く気持ちが結構違う。
ほ、と息を吐くと、彼はてくてくと、こちらに歩み寄ってきた。
「二人は何?今日の夕飯の買い物?」
「まーね。あ、今晩はハヤシライスなんだって」
「『なんだって』、って、ヒリングがアイディア出したのに……」
「へぇ、ハヤシライスか。久しぶりだね」
アニューの呟きをスルーして、リジェネは、でも、と言葉を続けた。
「僕としてはそうだねぇ、ケーキ食べたいんだけど」
「え?」
「あ、それだけで夕飯っていうのもちょっと寂しいから、クッキーとかマフィンとか、色々集めてみればいいと思うんだ」
「ちょっと、リジェネ?」
「飲み物は当然紅茶でね。牛乳でも良いよ」
呼び止める様なヒリングの言葉をも無視して、だめかな、と首を傾げるリジェネ。
そんな彼を見て、アニューは困りながらも微笑んだ。
「あの、それは晩ご飯って呼びません」
アニューも苦労人です。頑張って。
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