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超久々途美学園単体だと思うんですが。お題とかじゃなくて単体。
沙慈と刹那のお話です。
その学校はいつも賑やかだった。
賑やかと言うか、むしろ騒騒しいと言う人もいるだろうとは思う。かくいう僕もそんな生徒の一人だったのだから、その辺りは間違いない。入学してから二ヶ月間、ようやく慣れたから賑やか、なんて言えているだけなのだ。
二ヶ月も経てばクラスにも慣れて、クラスメイトとも仲良くなって互いに助け合ったり色々したり、そんな楽しい日々が続いた。
そしてそんなある日。
僕は、うっかりと迷ってしまっていた。
この学校は実はとんでもなく、広い。設備だって他の私立とは比べようもないくらい充実している。そのうち全ドアが自動になるんじゃないかという噂さえ現れるほどに。
そんな場所の『とんでもない』広さ。
実際、その事実が今この瞬間、僕を凶器のように襲っているのだけれど。
「……どうしよう」
「どうしようとは、どうかしたのか」
「実は迷子で…」
言いかけて、止まる。
どうして自分の呟きに返事があったのだろう。ここにいるのは自分だけ、そのはずなのだが。よって答えなんてあるわけが。
僕は少し緊張しながら振り返った。
「……あ」
「…」
そして、そこにいたのは。
「どうしてお前はここにいる、沙慈・クロスロード」
「……えっと、刹那?」
刹那・F・セイエイだった。
どうしてこんな所にと、僕は混乱した。もう授業は始まっている時間だろうに、彼はどうしてこのような所にいるのだろうか。僕を捜しに、なんてことは無いだろう。彼はクラスに馴染んでこそいるが、なかなかどうして進んで輪に加わろうとはしていないようだった。もちろん、話しかければ返事は返ってくるのだけれど。
そんな彼がわざわざ自分を探しに来る理由なんて、これっぽっちだって存在しないではないか。
しかし、それにしても、そんな彼がどうしてこんな校舎傍の花壇なんかに。
互いに黙っている中、先に口を開いたのは刹那だった。
「…俺は、ヴェーダに頼まれ事だ」
「あぁ、そういえば刹那って生徒会だっけ」
「おかげで苦労している…」
心底疲れている、と言わんばかりにため息を吐いた刹那に、僕は苦笑を返した。
「…それで、お前は」
「え?っと、僕?僕はその…」
…少し恥ずかしいけれど、刹那も言ってくれたのだし、ここは答えるべきだろう。
「…迷子…で」
「……三時間目は化学だったか」
「あ、うん」
それは次の時間のこと。今は二時間目。
迷子とそれと何の関係があるのだろうかと首を傾げると、彼は表情も変えずに続けた。
「今から名三時間目に合わせて移動した方が良いだろう」
「…あ、そっか」
腕に付けている時計を見れば、確かにそんな時間帯ではあった。急げば最後の五分間程度には間に合うだろうとは思う。ここがどこだか分かっていなくても、どうせ学園の中のどこかなのだからその程度は想像も出来た。
けれども、だからといってその五分だけのために急ぐというのもあまり効率的ではないと、刹那は考えたのだろう。それならいっそのこと、二時間目はスルーして三時間目に焦点を合わせて動こう、と。
先に行こうとする刹那を慌てて追って、僕は庭を出た。
それから彼の隣に並び、ふっと疑問に思ったことを口にした。
「ねぇ、ヴェーダに何を頼まれたの?」
授業そっちのけで呼び出されたようだし、何か重大な仕事でもあったのだろうかと思ったのだけれど、刹那は、その問いに渋い顔を見せた。
「子犬が庭に迷い込んだと言っていた。保護しろと」
「…子犬…………迷?」
「探したが、いなかった」
言いながら、渋い顔をどことなく悔しそうな物に変える刹那に、何となく『迷い犬』の正体を理解した僕には、苦笑いに似た表情を浮かべて黙っている以外に取るべき態度はなかった。
迷い犬=沙慈くんです。
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