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臨也さん中学校時代のお話。折原兄妹です。そして双子は兄より何か強いっぽいんだよね。



041:始まりの予感
 
 
 
 最近感じていた奇妙さを頭の中から掘り起こし、改めて瞼の裏に浮かべて吟味すれば、それはやはり訝しさ以外の何物でもなかった。改めて確認するまでもなく、分かっていた事ではあったのだけれども。
 軽い違和感と不思議な新鮮さを含むその感情と向かい合えば、感じるのは謎。
「……おかしいんだよね」
「なにが?」
「……妙?」
「……学校での話なんだけどさぁ」
 呟きに反応してきた双子の妹たちに応えながら、臨也はここ数日の学校生活を脳裏に思い浮かべて口を開いた。実際に言葉にしてみた方が色々と頭の中のあれやらこれやらが整頓出来る気がしたから。
「ほら、俺ってある程度、学校とかだと猫かぶってたりするだろ?学校内で過ごし易く過ごせるように、好きなように人を好きに出来る様に、あまり荒波立てないでさ」
「うんうん、そういえばそう言う話は何回も聞いたね!まったくイザ兄ってば似合わない事してるなぁって、聞くたび聞くたびいっつも思ってたよ!」
「よし、舞流、お前後で頭グリグリの刑だからな。……ま、ともかく、俺の猫かぶりは成功してたわけだし、今も成功してるだろうと思うんだ、けれどね」
「……違?」
「そう。俺はとあるクラスメイト一人に対してはどうやら、思い違いをしていたらしくってねぇ……彼はニコリと笑いかけながら言ったんだよ。『君のその作り笑い、とっても笑えるね!』ってさ」
「……わお」
 その言葉に舞流が目を丸くした。
 それは……そうだろう。自分にそんな口を聞けた人間なんて、多分片手で数えて足りるくらいの数しかいないのだから。もっとも、自分はまだ中学生なわけであり、これからその数はさらに増える事は恐らく違いないのだが、それはさておき。
 問題は、そう言って笑ったのがクラスメイトであるという事実だ。
 言われるにしても、まさか同い年の誰かにこんな風に言われるなんて全く、これっぽちも、自分は想像していなかった。そんな風に思える同年代が同じクラス内に存在しているなんて、考えてみた事もなかったのである。
 だから、新鮮だった。だから彼に興味を持った。
 ならば自分が、彼に対して何らかのアクションを起こしても不自然ではないだろう。と言っても、せいぜい起こせるアクションと言ったら話しかけるだとか、傍に消しゴムを落として反応を見るとか、そんな些細なことになると思うけれど。
 何をしてみようかと、珍しく明日の学校を楽しみに微笑んでいると、九瑠璃がどんよりとした表情を少し歪めてポツンと呟いた。
「……滅」
 そしてそれは……あまりに酷い単語……というか文字だったりして。
「……え?ちょっと?九瑠璃さん?今なんて言いました?」
 思わず敬語になって問い返すと、双子の姉の方は何故だか嫌そうな表情を浮かべてふいと視線を明後日の方向に向けてしまった。
 ……一体自分が何をしたというんだろうか。さっきまで普通に二人と会話して、普通に明日の予定を立てて、普通に楽しみだと思って笑みを浮かべていただけだというのに、何で突然『滅』とか言われないといけないんだろう。
 助けを求める様に舞流の方に視線を向けると、彼女はとてもとても楽しげな笑顔を浮かべていた。……腹が立つ。
 けれども対九瑠璃の時に彼女ほど役立つ存在もいないわけであり。
 ぐ、と苛立ちを抑えて、表情を引きつらせながら彼女に尋ねる。
「……どういうことか分かるなら教えて、舞流」
「こんな事も分からないなんて、イザ兄ってば仕方がない人だよねぇ。兄のくせに。もっと妹と交流するべきなんじゃないのかなぁ?」
「……」
 ……耐えよう。ここはとりあえず耐えよう。ここで噴火したら後でどんな仕返しが来るか分かったものではないから。画鋲入りの白米なんて食べたくもない。
 そしてそんな自分の決意はどうやら不要だったようで、あっさりと舞流は答えをくれた。
「イザ兄ってさぁ、そうやって人をどんどんどんどん奈落の底に突き落としちゃうよね?」
「まぁ、何でか自然とそうなるよね。狙ってない時もあるんだけど。……で?」
「だからイザ兄って友達いないじゃん?」
 その言葉が、胸のどこかに刺さった気がした。
 傷の無い痛みに耐えながら、絞り出すように答える。
「……あぁうん……いないよ?」
「で、さ、それが問題なんだよねぇ……」
 こちらのダメージに気付いた様子もなく、はぁ、と息を吐いて、舞流が言う。
「友達いないと誰も遊びに来ないでしょ?クル姉はそれが不満なんだよね。人間観察、イザ兄は趣味かもしれないけど私たちはライフワークのための大切な手段なんだから」
 少しでも色んな人が見たいんだよ?私たち。
 だから、興味歩に出人に近づき人を引き離すその態度が嫌なのだと言う舞流と、その隣で同意と頷く舞流を見て、臨也は少しだけ唖然とした。……つまりそれは、自分に友達を作って家に連れて来いと言う事なのか。
 あまりに突然な、しかも初めての要求に驚きながら、しかし、それもたまには良いかもしれはいとは思う。友達『ごっこ』なんて、そういえばやった事が無い。
「……仕方ないなぁ」
 苦笑を浮かべ。
 臨也は、件のクラスメイトと『友達』になる事にした。






お兄ちゃんが友達作るつもりなく人と接するのが不満なクル姉でした。
ちなみに『件のクラスメイト』=新羅だったり。
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