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017:昼間の森
「……なーなー元親ぁ……今、俺たちどこにいるのかな……?」
「弱音吐くんじゃねぇよ。あとそれは俺の方が訊きてぇ」
ある意味サバイバルと呼べなくもない生活三日目。
元親と慶次は、ひたすら道なき道を進み続けていた。
元就と半兵衛が渡してきたキャンプセット一式を初日の夜に破棄したため、最初より歩く速度は上がっていると思う。体力も、余計な荷物を運ぶ必要が無くなったために減りは少ない。もっとも日中はずっと歩きっぱなしなので、疲れることは当然疲れるのだが。
だが今、一番元親たちを精神的に疲れさせているのは別の事実である。
その辺りにあった木の幹を押しのけるように手を置きながら、元親はぼやいた。
「ったく……人を置いて先に帰るたぁいい度胸してんじゃねぇかよ」
昨日、一度山から下りた時にタイミング良く鳴った携帯電話。その向こう側にいたのは政宗であり、彼から「先に帰る事になったから、まぁ、お前らも頑張れ」という言葉を聞いた瞬間、驚愕で思わず口をぽかんと開けてしまったのは今や良い思い出かもしれない。現在、そんなリアクションをしている暇など全く無いものだから。
あの時は確か……そうだ、冗談なのではないかと一回疑ったのだったか。しかし通話が切れた後に、これが夢でも何でもない、単なる現実だと気付いてしまったのは幸いだったのだろうか、不幸だったのだろうか。
「半兵衛と元就だからねぇ……俺たち置いて行くくらい普通にするよね」
先のこちらの言葉に苦笑さえ浮かべることなくため息を吐く慶次は、どうやらそうとう参っているようだった。無理もないが。
振り返って今にも倒れそうな後輩の頭を軽く小突いてから、改めて進行方向を見据える。
「とにかく歩くしかねぇ。気合入れるぞ」
「帰れるのかなぁ……」
「帰れるって思っとけ」
そう思ってでもいないとやっていられないのだから。
圏外で通じない携帯電話を握りながら、元親は出来るだけ力強く次の一歩を踏み出した。
彼らならそのうちちゃんと帰っていけるはず。頑張れ。
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