式ワタリによる、好きな物を愛でるブログサイト。完全復活目指して頑張ります。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
幻術編、とかタイトルにあるけれど、だからといって、死ぬ気の炎編、とか、十年バズーカ編、とかいうものが出てくるかは不明。少なくとも今のところその予定は無しです。
骸さんとハルさんのお話。なんつーコンビだ。
「ファッションショー、ですか」
言って、骸は渡された冊子の表紙をぺらりと捲った。
その冊子は、よくある衣類の通信販売のカタログだった。パジャマにワンピースに靴下にスカートにスーツに下着。身につける物なら何でもござれと言わんばかりの品ぞろえで、実際、何故だかブレスレッドやネックレスまで商品として載せてある。
衣類だけでは駄目だったのか、お客様のニーズとやらに応えた結果なのか。どっちにしたって自分には関係ないが、少しだけ興味がわいた。
とはいえ興味は『少し』でしかなかったし、今はその疑問を頭の片隅に置いておくことにする。もしも時間がたっても興味や疑問が失せないようなら、その時は気が向くままにじっくりと調べてみればいいだろう。
そんな風に思いながら渡されたそれをばさりと机の上に落とし、機体に目を輝かせている彼女に笑顔も浮かべずに答えた。
「断ります」
「なっ……何故ですか!?」
「何故、と言われましてもね……普通に考えて何か違うと思いません?」
「思いません!そんな素敵な特殊能力があるのなら、人様のために使うべきだと思うのです!ですから協力して欲しいんです!」
「生憎ですが、私は人のために自分の力を使うつもりはありません」
腕を組んで、熱くなっているハルを改めて見る。
先ほどまで自分が見ていたあのカタログを持って来たのが、彼女だった。ファッションショーをしたいと言ってそれを押し付けてきた彼女だが、欲しい服が自分に似合うかどうかを商品を注文する前に試したいだけらしいと気付いたのは、それを渡されて直ぐの事。
その気持ちは……分からなくもない。これは良いと思って通販で注文してみたら、やってきたのは想像していたのとは何かが違う代物、などという絶望感など、誰だって何度も味わいたいとは思わないだろう。
だが、それとこれとは話が別。
自分は自分のため以外で力を使うつもりは無い。
それに、幻術をこんな事で使うなんて何かが間違っている。
故に、断るのは当然のことだったし、断っても後悔するとも思えなかった。だから、断る。その結果として、彼女が成功するか失敗するか分からない博打もどきをうったとしたって、自分の知る所では無い。
むぅ、と頬を膨らませて不満を露わにしているハルに、骸は優しく語りかけた。
「諦めてお帰りなさい。幻術なんてものに頼らなくても、貴方は貴方の目を信じて注文すればいいのです。実際に着用した姿が見れなくても、貴方には想像力と言う素晴らしい力があるのですから、それで似合うかどうか判別すればよいでしょう」
「うー……」
「大丈夫ですよ。自分を信じて下さい」
そう言った後、にこりと微笑みを浮かべてやると、彼女ががくりと肩を落とした。
「それは……そうかもしれません……確かに、今までも自分を信じてやってきましたし」
「でしょう?ですから……」
「ですが……ハルは、その度その度に自分に裏切られ続けてきたのですよ……」
「……」
「結構自分を信じて行動してきましたが……そろそろ限界かなぁって」
「……そうですか」
萎んだ声に、どうにかそうとだけ返す。
それはご愁傷様、とここで言えれば良いのだが……そんな風に言うには、自分も色々と失敗し過ぎていた。ハッキリ言ってしまうと、骸はハルに対して、この時点でとんでもなく感情移入をしてしまっていたのである。
しかし、それではいけないと首を振ってどうにかその共感を振り払い、今度は彼女の顔をなるべく見ないようにして言った。
「ですが、やはり駄目です。これだけは変わりません」
「どうしても、ですか?」
「どうしても、です」
「……分かりました」
憂鬱げに表情を歪めたハルは、そして数秒後、一変して明るい表情を浮かべた。
「あ、じゃあ、クロームちゃんに頼めばいいんですね!」
「え?」
「クロームちゃんならきっと事情を全部話したら、ハルの頼みを聞いてくれます!」
「事情を全部って……」
つまり、自分が彼女の頼みを断ったことも含めて話すつもりなのだろうか。
それは……軽くマズイ。いや、非常にマズイ。そんな話をクロームに伝えられたら、しばらく自分は彼女のちょっと冷たい視線にさらされるか、微妙な非難の籠った目で見られ続けるかされてしまう。
正直、そんなの普通に嫌だった。
「……三浦ハル」
「はひ?何でしょう」
「……どの服が希望ですか」
背に腹は代えられないと、カタログを手に取りながら苦々しくもそう尋ねると、彼女の顔が今まで見たこともないくらい、ぱぁぁ、と明るくなった。
最後のクローム云々あたりのハルは、別に骸を脅迫してるわけではないですよ。思いついたことをそのまま口にしてみただけです。悪しからず。
PR
この記事にコメントする