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07. 幻の一族の末裔は、孤独にさよならを告げて
湖の畔で瞬間移動の練習を始めたティエリアと、指導を始めたマリーを眺めながら、刹那は木にもたれ掛かっていた。直ぐ傍らには座り込んでいるライルの姿もある。
「そういえば……ライル」
「ん?」
「お前は、付いていくことに異論はないのか?」
それは、先ほどから疑問に思っていたことだった。
自分はもう……良しということにした。ティエリアは最初は嫌がっていたが、今では行く方へと意志が傾いている。だが、ライルの考えだけは聞いていない。
だから訊いてみれば、彼はあー…と頬を掻きながら口を開いた。
「まぁ、流れ的に?」
「成る程」
それもまた、一つの選択ではあった。
頷きつつ、自在に様々な場所へと現れるマリーと、水の中に落ちかけて慌てて宙に浮くティエリアを視界に入れる。習うより慣れろという様子だが、まぁ、それで良いのだろう。そちらの方が、理論を聞くよりは技術を身につけやすいだろう。
今度は木の上に上がってしまった彼を見て、これは何だろうと思う。笑いに走っているのではないと……それくらいは分かる。表情は一生懸命だし、纏う空気にも鬼気迫るモノがある。というか何より、笑ったらその時点で確実に冥界逝きである。
しかし、それでも笑う人間もいる。
「あははははははっ!オイオイ…ティエリア、どこに出て来てんだよ……やべぇ、かなり笑える……っ」
「……ライル・ディランディ」
「げ……ちょ、冗談だぜ?冗談だから……」
「万死に値するッ!」
バンバンと地を叩いて笑っていたライルだったが、ティエリアの表情を見て危険を察知したらしい。慌てて弁明をしようとしたようだが……それも間に合わず、そもそも言い訳が彼に聞き届けられるわけもないので(そのくらいは自分でも分かった)無駄なのだが、怒れるティエリアの魔法攻撃の標的にされてしまった。
危ないのは刹那で、気付いたときには目の前に灼熱の球が近付いているという始末。自分を助けてくれたときよりは温度も低くて規模も小さく、殺傷能力が無いのは分かるのだが……当たれば確実に火傷は負うだろう。
避けることは無理だと諦めて目を瞑ると、軽い浮遊感が身を襲った。
訝しく思い、目を開ければ……眼下に見えたのは広大な森。
「危なかったですね……ティエリアさんも森で火を使うのは止めて欲しいんですけど」
「……これが瞬間移動とやらか?」
「えぇ。どうでした?」
「酔いそうだな」
「ふふっ…慣れなければそうでしょうね」
隣にいたマリーはクスリと笑い、そして一瞬後、二人は森の中に戻っていた。
見えたのは、ピクピクと動かないライルと、肩で息をしているティエリア。
……見なかったことにした。
「ティエリアさん、瞬間移動の方はどうです?」
「……少し、コツは掴んだ」
「では大丈夫ですね。あとは経験です。あ、刹那さん、ライルさんとティエリアさんの傍に行ってください。私が皆さんを瞬間移動で森の外に送り出します」
大人しく従うことにして、刹那はティエリアとライルの傍まで寄る。
三人纏まった自分たちに手のひらを向けて、マリーは静かに目を閉じた。
待つこと数秒……二度目の浮遊感を感じ、そろそろかと思ったその時。
「あ、森の中だけならともかく、森の、この小さな世界の外だと……どこに出るか分からないので気をつけてくださいね。もしかしたら大変な所に出るかも知れません」
「……は?」
さらりと衝撃事実が告げられた。
思わず聞き返したが、答えはないままに森の風景が見えなくなる。
寂しげに笑っていたマリーの表情と、最後の言葉と共に。
―――では、お元気で。