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15. どちらかだけなんて選べないから


 夜、ふと刹那は物思いに耽る。
 それは、今のままで本当に良いのかという思考。

 今のままでは確実に人間が滅ぶ。自分だけはマリーの友人知人として、あるいは生き残るかも知れないが、それ以外の人間たちは確実にいなくなるだろう。以人という存在は酷く強い。人間以上で人間以外だから、同族でも無い人間を潰すことに躊躇いは起きないだろう。

 だがしかし、それをやらなければアレルヤは起こせない。どんな性格の以人かは知らないが、あの二人の話によると争いを好まないタチらしいので、やはり眠ったままでは不憫だと思う。こちらは人間と違って自業自得ではないので、同情の余地は有り余るほどにあるに違いない。

 だからこそ悩まなければならないのだ。
 まぁ、実際。刹那一人が悩んだところで何の解決にもならないだろう。以人を止めるほどの力はないし、眠り続ける存在を起こすための手段を持っているわけでもない。
 それでも、何も出来ないからこそ考えなければならない。

「この本にどれ程の事が載っているか…」

 ソーマが一通り読み終えたという本を手に取り、割り振られた部屋のベッドに腰を下ろして表紙をジッと眺める。これに何か役に立つ……以人でなくて、自分にとって役立つ何かがあればいいのだが。そんなことは、万に一つの可能性であることは分かっていても、祈らずにはいられなかった。

「…おいガキ、テメェ何やってんだ?」
「ハレルヤか……」

 それでも、と表紙を開いた刹那の元に、タイミング良くハレルヤが現れた。
 部屋まで尋ねてくるとは一体何だろうと思い、彼の視線が本にぶつかっていることに気付いてあぁ、と納得する。そういえば、彼はまだこの本に一度も目を通していないのだ。食器洗いだとか後片付けとか何とかで。本日の当番は彼だったらしい。

「片付けは終わったのか?」
「まぁな……で、何やってんだ」
「本を読んでいた」
「何でだ」

 スッと、刹那は目を細めた。

「……理由は必要なのか?」
「俺には、テメェが意味もなく暇つぶしとしてソレを開いてるようには見えないんでね」
「……分かった。言う」

 はぁ、と溜息を吐いて、ありのままを話そうと口を開く。
 些か不用心過ぎる気がするが、それでも嘘を言って状況を酷くするよりは圧倒的に良いだろうという確信があった。恐らく、簡単な嘘は直ぐに見破られてしまうだろう。

「人間を生かし、アレルヤを起こせる方法がないかと探していた」
「…アレルヤの事が無くても、俺らは人間を殺してたぜ?」
「分かっている。だが、俺は人間だからな」

 彼らの言い分は分かりすぎるほど分かる。
 だが、自分は人間なのだ。
 人間の肩を持つのは、当然のこと。

「可能性があればと、そう思った。それだけだ」
「……ま、テメェは本来、こっからさっさと逃げてねぇといけねぇヤツだしな。分からなくはねぇか」

 物わかりの良いハレルヤに感謝して、そのついでに、と刹那は本を閉じて彼の目をまっすぐに見た。多分、聞いてくれるだろう。

「ハレルヤ、頼みがある」
「ん?」
「連れて行って欲しい場所があるんだ」

 

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