巡界二十題 19.一緒に来てくれて、ありがとう

19. 一緒に来てくれて、ありがとう


「正直、僕は……人間を滅ぼすという意見は行きすぎだと思う。けど、ちょっと反論できない気もするんだ。初対面の君のこんなことを言ってみるのもなんだけど、ね」
「いや……構わない」
「そう？なら続けさせてもらうと……僕は、人間が嫌いじゃない」
「……」
「あんな目にあわされたけれど、それは仕方がなかったって、そう思ってる。僕らは以人と呼ばれて、つまりそれは人間以上だと示されているんだからね。そんな対象に恐怖を抱いてしまったって……当然のことでしょう？対抗するために調べようとするのだって、当たり前のことだ。だから僕は」
「人間のしたことを納得していると」
「そういうこと。でも、やっぱりあれは……痛かったかな。あそこまで無慈悲になれるものなんだなぁって、その時初めて知った気がするよ」
「つまり、」
「ん？」
「つまり、嫌いではないが好きにもなれず、過去の傷があるから反論も出来ないと」
「物わかりが早くて凄く助かるよ。えっと……」
「刹那だ」
「…刹那。ゴメンね？さっきも名前聞いたばかりなのに……」
「気にするな。覚えてくれさえすれば良い」
「刹那って優しいね……」
「そうか？」
「そうだよ。人間にもいい人と悪い人がいるって分かってるけど、君を見てたら本当にその……顕著な感じがするよ。昔って大変だったからなぁ……」
「……大変、で済むものか？」
「すませようと思えばね。所詮過去、って言ってしまったら終わりだし」
「前向きなのか？」
「僕？……どうだろ。どっちかっていうと後ろ向きかもしれないよ…」
「そうは見えないが。心配性と言った方が正しい気がする」
「それも行き過ぎたら後ろ向きになるって…」
「それもそうだな」
「……ねぇ、刹那は怖くないの？」
「何が」
「何って……ほら、僕のこととか。これでも、やろうと思えば人間滅ぼせるんだよ？」
「……いや、別に」
「不思議な人だねぇ……君って。普通は怖がると思うんだけどな……」
「お前たちは不条理な理由で行動していない」
「え？突然、何？」
「……だから、怖がる理由がない」
「……え？」
「理不尽な自然災害でもあるまいし……怖がる理由はどこにも無いだろう」
「……あはは……それもそうかもしれないね…」
「どうした？何で脱力している？」
「だって君……いや、いいや。というか、どうやって僕を起こしたの？」
「よく分からない」
「分からないんだ……」
「あぁ。起こそうと思って、『鍵』としての何かをどうにかしようと思って……次の瞬間にアンタが起きていた」
「うぅん……それじゃ理由も経緯も分からないよ……」
「…すまない」
「刹那が悪いんじゃないよ！……落ち込まないで？」
「……分かった」
「そう言ってくれて幸いなんだけど…あの、綺麗な石を使った、のは事実？」
「恐らく。その後がよく分からないんだが…」
「……だとしたら変なんだよねぇ…あの石の力だけで、僕が現状を保ててるとは考えにくい。僅かに、力が足りなかった気がするから。あぁ……もしかして」
「？」
「君も以人なのかもね」
「……馬鹿なことを」
「ふふっ……だよねぇ。でも、それよりも。僕が行ったところで、戦いは始まるよ？」
「人間側が動いたのか」
「うん。何か色々と、分かっちゃうんだよね……で、今まさに城に攻め込もうとしている所。ハレルヤとソーマが気付いて応戦しようとしているところ。それでも……君はこの状況をどうにかしようと思っているの？」
「そうだ」
「……お人好し、かなそれって。僕も大概だけど…」
「……付き合わせて済まないな」
「それこそ気にしないで。僕は君に借りがある上に、とてつもないお人好しな自覚があるんだからね」