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18. この封印を解いたらもう戻れない
真夜中、刹那は例の……アレルヤの眠っている場所へと向かった。
もちろん、ハレルヤもソーマも眠っている。熟睡しているようだったから、きっと簡単には起きないだろう。
だからこそ、安心して行動が出来る。
「……アレルヤ、とか言うんだったな…」
眠って起きない青年の頬に触れると、生きているのだから少しは暖かいものの……やはり常時よりは冷たい気がする。元からこれほど体温が低い、というのは無いだろうし、これは現状の弊害と見て良いのだろう。
触れてもピクリとも動かない彼を見ながら、刹那は切なげに目を細めた。
この目が開かなくなってどれほど経ったのだろう。
この体が動かなくなってどれほど経ったのだろう。
この顔が表情を表さなくなってどれほど経ったのだろう。
この口が言葉を紡がなくなってどれほど経ったのだろう。
分かるわけがない。刹那はつい今日、この場所に来たばかり。騒動に巻き込まれたのだって……そう、今日なのだから。
たったの一日で、よくもここまで状況が変わるものだ。
しみじみと思いつつ、懐から一つの結晶……マリーに渡された石を取り出す。
これを使えば、彼を起こすことは出来ると言っていた。
「問題は……」
その後。『鍵』としての力を制御できるかどうかが問題なのだ。
使わなかった力を徐々に蓄え、作り出したというこの石。それにどれほどの力があるのかは分からないが……やるしかない。
もしも失敗すれば、取り返しのつかない事になる。世界は滅んで、それで終わりになってしまう。ハレルヤもソーマもマリーもティエリアもライルもロックオンも、誰も彼もが死んでしまうのだろう。
あるいはそれが一番幸せな未来なのかも知れない。たとえアレルヤを起こして『鍵』としての力を封じることが出来たとしても、以人と人間の争いが止まることは……無いような気がした。それを事前に食い止めるべく、以人の二人をどうにかしようと起こそうとしているのは変わらないが、だからといって人間が行動を起こさないとは思えない。
「……どれにしろ、可能性は低いな…」
呟いて、首を軽く振った。
そのくらい既に分かっていたことなのだ。ただ、アレルヤを上手く起こすことさえ出来れば、それを回避する可能性がやや上がると言うだけに過ぎない。そして、ソレは当然ながらそれだけの価値しか無く、同時にそれほどの価値がある事なのだ。
藁にも縋りたい思いというのは、こういうのを言うのかも知れない。
滅ぶのなら、せめて何かの役に立って欲しいが……ハッキリ言えば、滅んで欲しくないというのが心情。だが、以人の彼らの気持ちも、分かる。
だからこそ、誰がどうと言えずに酷く複雑な思いをしているのだ。
「中途半端だな…」
仮にだが、以人が人間の中で人間として暮らしていたらこんな気持ちになるのだろうか。自分の場合は生粋の人間だけれど、この国の誰かでもないし今日初めて関わった人間であるし、現実感が追いついていないからこその現状なのだろうが。
しかし……考え続けていても仕方がない。
青年の髪を少しだけ撫で、刹那は石を握った。
そして、フッと笑う。
「……後戻りは……」
出来るわけがない。