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二番目にやらせたかった事はこれかもしれないという。
カコン、カコン、カコンカコン、カコンカコンカコン、カコンカコンカコンカコンカコカコカコカコカコカコカカカカカカカカカカカカカ……
「…何だありゃ」
レクリエーション室に足を踏み入れたハレルヤが最初に目にしたのは、卓球台とそれから……卓球で試合をしているらしい二つの影だった。
そのうち一人が物凄く見覚えのある顔のような気がして、思わずげんなりとした表情を作る。何でまたどうして、こんな早朝からこんな所で卓球……しかも知らない誰かと、かなりの速さのラリーを続けているのだろう。
ワケが分からないと首を振り、ふと、壁際にちょこんと座っている人物を認める。顔の左半分を仮面で隠している彼は、昨日や一昨日に手品を何度も見せてもらった相手だった。
そちらの方もこちらに気付いたらしい。軽く頭を下げてきた。
体育座りをしている自称・道化師の方へ向かっていって、ハレルヤはその隣で立ち止まった。それから彼を見下ろす。
「アイツ、テメェの連れか?」
「……」
黙ったままこくりと頷いた彼は、どこからか取り出した紙とペンに文字を書き始めた。それを見ても、ハレルヤは別に何も思わない。初めて見た一昨日の時ならまだしも、今ならそれが彼が喋り下手だと分かっている。なのに騒ぐ気にはなれなかった。喋らしてみたいとは本気で思うが。
それはともかく、仮面を付けた道化師は文章を書き終えたらしい紙をすっと、こちらに見せてきた。視力は悪くないので、そのまま身をかがめることもなく読む。
『何か、来てみたらこんな状況だった』
「テメェの方も現状の理由は知らねぇのか…」
『そう。彼を探しに来たらこの状況だった』
彼、というのは刹那と卓球を続けているもう一人のことだろう。長ったらしい髪を後頭部で一括りにしているソイツは、中々に良い動きをしていた。
刹那も刹那で、実に活き活きと動いているように見えた。こう言うところだけを見れば普通の子供のようだと思ったが、それを言ったら突っかかってきそうだから止めておく。そもそも自分にとっては「普通」の定義が曖昧だし、彼は子供扱いを酷く嫌う。……前言撤回、わざと言ってからかうのも良いかもしれない。
面倒を取るか遊びを取るか。どちらも良い選択だと思ったが、少なくとも後者は刹那が卓球を終えるまでは行えない。
ということは、いつ終わるのかが問題となるのだが。
「……これは終わらねぇよな」
『同感』
「…一つ訊くけどな、テメェはいつからここにいるんだ?」
今は朝の八時だが。
『朝の七時半』
「…そん時には既にやってた、ってたな?」
ということは三十分は途中で途切れていたとしても、卓球台に向かっていたと言うことだろうか。よくやるものだ。
呆れていると、しかし、彼はフルフルと首を振った。
は?と視線をやると、再び文字の書かれた紙が差し出される。
『だから、少なくとも三十分以上あの状態』
「……途中で中断とかしてねぇのか?」
『全く。途中でスローペースになることはあっても、途切れることはなかった』
「マジでか」
それは凄いという他ないだろう。それを続けることが出来る体力、技能……それらが両方に備わっていなければ起こり得ない事態だ。ちなみに自分には出来ると思うが、今はここにいない片割れには出来ないだろう。そういう感じの物だ。
そういう事はともかくとして、何よりも凄いのは恐らく、それを延々と続けることが出来る集中力だろう。
三十分以上これを続けているというのだから、本当に。
未だに終わりそうもない両者のラリーを眺め、これはどうするべきなのだろうかとハレルヤは本気で考えた。終わるまで放っておくべきなのだろうか、それとも今すぐにでも台から引きはがすべきだろうか。
そう考えて、止めた。刹那がどうなっていようと正直、こちらとしてはどうだって良いのだ。ただ、アレルヤが刹那がいない事を心配していたから何となく来てみただけであり。帰って報告するだけで良いはずだ。
ハレルヤがそう思っている間に、道化師はハァと息を吐いてさらりと文字を書いた。自然すぎるその動作に、これが既に習慣の域に入っているのだと分かった。
『負けず嫌いだからって、彼もよくやる』
「彼ってのはチビの相手のヤツだな」
『チビって……まぁ、貴方よりも背は低いけど、その言い様はないんじゃないかと』
「あってんだから良いだろーが」
『そういう問題?』
呆れた表情をされたが、そんなこと知ったことではない。
彼から視線を外し、ハレルヤはまだまだ終わりそうにもない二人の試合を眺める事にした。
そして、この試合?が凄く続いていくのですよね。