月曜日の物語 ④喧嘩と遭遇

ようやく喧嘩コンビが。

---

「だから何度言えば分かんだ手前は！とっとと池袋から出てけ！」

「や、だ、なー！シズちゃんったら、何の権限があってそんな事言ってるの？」

　必要以上にテンションを上げた罪歌に腕を引かれて走ること一分程度。

　辿りついた場所では、池袋最強と情報屋が命がけの喧嘩を行っていた。

　想像通りの光景と想像以上の風景を眺めつつ、杏里は罪歌の服の袖を引いた。

「今…取り込み中みたいだし…帰らない？」

　幸いと言うべきか、自分たちが現在いる場所は彼らからは死角になっているハズだった。まぁ……たとえ視界の中にあったとしても、認識してもらえるかは少しばかり疑問ではあったけれど。それくらい本気で二人は喧嘩していた。

　あれは喧嘩という名の殺し合いだろうから、それもまた当然かもしれないが…。

　ともかく、あんな自動販売機と道路標識が飛び、たまにナイフが飛ぶような空間に、杏里は好き好んで入っていくつもりはなかった。せいぜい死角で安全な気がするこの場所から、二人の死闘を眺めるくらいである。

　しかし、罪歌は違うようだった。

「嫌よ」

　ハッキリとキッパリとそう言った彼女は、ジャケットに仕込んであったカッターナイフの中の一本を取り出した。

　キチキチと刃を押しだしながら、彼女は続ける。

「折角会えたんだもの、折角見つけたんだもの。あんな黒ジャケット速攻で削除して、私は私で静雄と愛し合いたいの」

「黒ジャケットさんは愛さなくて良いの…？」

「…確かに私は人間を愛しているけれど…」

　ちら、と情報屋を見て彼女は呻く、ように言う。

「あの人はちょっと嫌いだわ」

「愛してるのに？」

「愛と嫌悪は両立出来るのよ。それに今の優先順位は静雄が上。だから静雄を先に切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んであげるの」

「…愛が重いね…」

「愛は想いだもの、仕方ないわ」

　ちゃ、と得物を構え、罪歌は標的を見据えた。

　本気なのだと、そろそろ杏里も諦めることにした。本当に危なくなったら、池袋最強相手ならむしろ不要かもしれないけれど、助けに入ろうと決めながらも。

　黒ジャケットの情報屋の方は…まぁ。

　セルティ曰く、ちょっと痛い目を見た方がいいらしいから、ある程度は放っておこう。

「てんめぇぇぇぇッ！臨也！避けてんじゃねぇぇぇ！」

「避けなきゃ死ぬんだから避けるに決まってるじゃない。そんな事も分からないの？」

「うぜぇんだよ！」

「それ褒め言葉……うわっ！？」

　と、臨也の驚きの声と共に風景が固まる。

　それでも投げられた自動販売機は慣性に従って飛んでいく。良かったのか悪かったのか、人の手ではとてもじゃないが持ち上げられそうもない鉄の塊は、情報屋の直ぐ隣に大きな音を立てて着地した。

　けれども、その音を聞いても二人は動かなかった。

　ただただ、二人でとある方向を見ているだけ、だった。

　そして、その方向には、そちら側にあった自動販売機に刺さっているカッターナイフの姿があったりするのである。

　誰の仕業なんて言うまでもない。

「静雄！会いたかったわ！」

　状況が固まったのを良い事に、死角から飛び出していった彼女のせいだった。

　左手に投げそびれたらしい道路標識を持つ池袋最強の右腕に抱きつき、彼女は今日見せたどの笑顔よりも嬉しそうなそれを浮かべる。

「会いたかった！会いたかった！会いたかった！」

「…シズちゃん、その子…知り合い？」

「いや…誰かに似てる気はするんだが…」

「会いたかったのよ、静雄！」

　突然の状況の変化に呆気にとられたらしく、先ほどまでの険悪さを無くして言葉を交わす二人を無視する形で、罪歌はただただ歌うように叫ぶ。

「愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる愛してあげる！愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して切り裂いて切り刻んで切り裂いて切り裂いて切り刻んで切り裂いて切り裂いて切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んであげるわ！」

　強烈な彼女の愛の叫びを聞きながら、あぁ、と杏里は思った。

　今の今まで彼女は結構我慢してきていたらしい。そう思わせるだけの勢いだった。…あるいは一番の優先順位を持つ相手に出会えてすっかり舞い上がっているのかもしれない。けれど、間違いなくそのどちらかなのだろう。

　そんな思考を続けていると、ようやく我に返ったのか、困惑した静雄の声が耳に届いた。
「愛して、切り刻んでって……お前、もしかして罪歌か？

---

 

我が家の臨也さんと罪歌は同族嫌悪を抱いてたりします。だから互いに嫌いだよ。