お題：紫陽花 10．根性なし

単にライルをへたれ扱いしてみたかっただけです。

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10．根性なし

 

 

 

「……ダメだ…俺には出来ねぇ…」

「が…頑張って！頑張ってライル！」

「アニュー…ありがとな……でも俺はもうダメなんだ…」

「そんな……大丈夫よ、貴方なら出来るわ」

「……アニュー」

「…ライル…」

「アニュー…」

「……この役立たずが」

「……！」

　二人の会話の途中に。

　突然アニューの背後から聞こえてきた言葉にライルはぴくりと肩を揺らして……ただでさえ落ちていた肩を、さらにがくりと落としてしまった。

　どんよりとした暗いオーラをまといだしたライルを前に、一体何をどうしたらいいのだろうかと思わず慌てる。出来れば元気を出して欲しいのだけれど……励ます言葉が見つからない。何を言っても今の彼には逆効果な気がする。

　こういう時はどうしたらいいんだろう……などと必死に考えてみるけれど、そんなこちらの思考に構う事無く。

　自分の後ろに立っているティエリアが、冷たい声音で彼に追い打ちをかけ始めた。

「全く、それでも君はガンダムマイスターなのか？その様な体たらくではまだまだ認める事は出来ないな。もう少ししごいてやるべきか？」

「……いや、でも、ドラマCD収録ってマイスターの資質云々関係あんのか…？」

　未だに表情は浮かないものの、どうにか、といった様子で絞り出されたその反論だったが、ティエリアははん、と鼻で笑った、ようだった。

「当然だろう。あれくらい出来て当然だ」

「……さいですか」

「ちなみに言っておくが、君の兄は一発クリアだったぞ」

「……」

　黙り込んでしまったライルの表情が痛々しくて、思わず頭を撫でてやるとほんの少しだけ、彼の纏っていたオーラの暗さが減った気がした。だからと言って、明るいオーラになったというわけではないのだけれど。

　その様子からして…これ以上言われたら完全に彼の心が折れる気がする。それは結構嫌だし……ならば止めてもらうしかないだろう。

　よし、と決意して、アニューはティエリアの方へ視線を巡らせた。

　そうして、予想通り険しい表情をしているティエリアに、少し困ったような笑みを浮かべつつも『お願い』を伝える事にする。

「……それくらいにしてあげて…欲しいんだけど…」

「まだ言い足りないんだが」

「でも、ちょっともう心が折れかけているみたいだし…ドラマCDなんて、初めての経験だろうから…お願い」

「…まぁ、そこまで言うのなら引いても構わないが…あと一つ言わせてくれないか？」

「…何、かしら？」

　嫌な予感しかしなかったが、ここで言うなというのも妙かと思って、緊張しながらもとりあえず聞こうと言う体制は作る。

　その後に沈黙は無く、大して引きを作るでもなくティエリアは口を開いた。

「一時間後に再び収録だ。そこで出来なければ……明日はみっちり僕とスメラギ・李・ノリエガとで稽古を付ける」

「え…！」

「以上だ」

　また後で。と、そう言って去っていく彼の背を、アニューは呆然と見送るしかなかった。

　最後の言葉は…それだけ見れば何と言う事も無い単なる報告に見える。そして、実際にそうなのだろう。……だが、今のライルに『明日みっちり稽古』というのはある意味、数々のミッションに参加すること以上にキツイ、ハズ。

　そこまで思って、ハッと、アニューはライルの方を見た。

　案の定、彼は先ほどとは完全に比べモノにならない暗いオーラ……否、闇そのものを背負っていた。

「……やべぇ…アニュー、俺、明日が命日かもしれねぇ……」

「だ…大丈夫よ！一時間後に成功出来たら大丈夫だから…ね？金欠なんだから頑張ろ？」

「…………ていうか金欠だからって…何でおれたちが働く必要があんだよ…」

「……でも…秘密ドックでは皆内職してたよ？」

「……マジ？」

「確かにお金はもらえたけれど…たまに足りなくなる事があったから」

　その予備に、と言ったら何故か頭を撫でられた。

　どうしてだろうかと首をかしげつつ、自分も内職を再開しようかな、なんて思った。

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アニューがしてたのは、髪で花を作ったりとかいう、そういう内職です。