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兄弟と兄妹の組み合わせでばったりです。



 この人は何でこんなにもまぁ、よくも丁度いいタイミングで現れる物だと思う。偶然だとしたらとんでもない。今までの遭遇率を踏まえて考えると、最早宝くじで一等……は行きすぎかもしれないから二、三等レベルを当てるくらいの運の良さだろうか。……あるいは、運の悪さなのかもしれないけれど。
 しかし、運が良いとか悪いとか、そんな事は決してないのだろうと思う。
 この人は、絶対にわざと、はかって、情報を集めてこの状況を作っているのだ。表情を見ればそのくらい、きっと誰にだって分かるに違いない。
 全く、兄もとてもとてもとてもとても面倒な人に目を付けられた物だ。
 それにしてもこの人、そんな事を延々と続けるとは実はかなりの暇人なのだろうか。そう思いながら、幽はじぃ、と遭遇者を眺めた。
 正確に言うと、今回ばかりは遭遇者たち、だったが。
「やぁ、奇遇だね。君たちもお祭り見に来たの?」
「わぁ!静雄さんだ!お久しぶりっ!そっちの子は誰?とっても好みだから是非とも是非とも私たちに紹介して欲しいな!」
「……黙」
 それはノミ蟲こと折原臨也と、彼の傍で互いに腕をからませ合っている少女二人という三人組。
 この三人がどのような関係のもと共にいるのかは知らない。あまり興味も無いし、立ち入る気も毛頭ない。他人事。……けれども、どうやら少女二人は兄と知り合いらしいと言う事だけは、頭の片隅にでも止めておく事にしよう。
 眼鏡をかけている方の少女に好みだと言われたことも含めて、どうでもいいと判断した事を意図的に意識のゴミ箱に捨てながら、ちらりと隣に立つ兄の顔を窺う。
 噴火前、と言ったところだろうか。それでも未だに物が宙を浮いていないのは、ここが人ごみの中である事、ここが夏祭りの会場である事が原因だろう。兄だって、楽しそうな雰囲気を壊しになんてしたくないに違いない。
 失敗したかな、と静雄との距離を縮めながら幽は思った。最近、目の前にいる兄の同級生のせいで精神的に疲れているようだったから、少しでもリフレッシュしてもらえるようにと、誘い出してみたのだけれど。
 逆効果、という言葉が頭をよぎる。
 酷く憂鬱な気分を抱える幽をよそに、臨也は楽しそうに言葉を紡いだ。
「まさかこんな場所で出会えるなんて思わなかったよ。たまには妹たちのお願いを聞いてみるもんだねぇ……俺の希望通り、ずっと家にいたんじゃすれ違う事さえできなかった」
「じゃあ、今すぐ希望通りに家に送り返してやろうか臨也君よぉ……?」
「やだなぁ、シズちゃん、話聞いてた?俺は家にいたかったとは言ったけど、家に帰りたいとは言ってないよ?」
「一緒だろうが」
「全然一緒じゃないさ」
「……あぁもう鬱陶しい!手前はどうしてそんな面倒な喋り方しか出来ねぇんだ!?」
「良いじゃんか。だってこんなの俺の自由だろ?」
 我慢が出来なくなったのか怒鳴り声を上げた静雄に対してさえ、にこにこと笑顔を浮かべたままに臨也は言う。兄の感情を逆撫でるように。
 このままではいけないと、幽は思った。放っておいたら絶対に静雄は怒りを外に吐き出す事になる。そうなると、帰ってから兄が酷く落ち込む事になり、それは自分の目的から大きく外れる結果になってしまう。
 二人を引き離さなければ、ならない。
 だから幽は静雄に、彼に構わずどこかに行こうと言おうとした。
 が、その前に…事態は幽が意識の外に置いていた二人の少女によって大きく動いた。
「そんなことより静雄さん、一緒にお祭り回ろうよ!大丈夫、イザ兄なんて今すぐこの場で簀巻きにしてでも放り出しちゃうからさ!」
「……肯……行……」
「え、ちょっとお前ら!?」
 どこからともなくロープを取りだした眼鏡の少女と、どこからともなくスプレー缶を取りだした少女を前に、頬に流れる汗が示すように焦りを覚えているらしい臨也。
 ほんのちょっと……どころでなく、酷く唖然としながらもその光景を見ていると、少し悔しそうに臨也が静雄の方を見た。
「ごめんねシズちゃん、俺逃げないといけないから……また明日学校でね!」
 そう言い残すや否や、くるりと背を向けて人込みをかき分けて去っていく背中。
「あ!待てイザ兄!……静雄さん、ごめんね。これから私とクル姉は、静雄さんたちと安心して祭りを回れるようにイザ兄駆除に行ってくるから、それが終わったら一緒に回ろうね!それまで適当にそっちの人と一緒に回っといて!帰ったらやだからね!」
「……待……」
 そしてさらにそれを追いかけて人込みに消える二つの背中。
 三人の姿が見えなくなるのはあっという間で、しかし二人が我に返るにはその上に数十秒、必要になったけれども。
「……兄さん、行こう」
 先に我に返った幽は、静雄の手首をつかんで引いた。
「リンゴ飴でも買おうよ、兄さん」
「……あぁ、そうだな」
 同じように現実に返ってきた兄は、ややぎごちないながら、とても穏やかに微笑んで。
 何はともあれ、どうやら状況は望んだ方に進んだのだろうと、幽は安堵を覚えた。






ある意味九瑠璃と舞流は最強だと思うのです。
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