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これにて「甘い蜂蜜、銀の器」は終了です。お付き合いくださった方々、ありがとうございました。



「なーなー、スクアーロって昔のこと覚えてる?」
「昔?どの話だぁ?」
「出会ってしばらくしての、あの誘拐事件」
「…そーいやンなもんもあったか」
 で、それがどうしたと言わんばかりの視線を受け、いや、と曖昧に笑う。
「懐かしーなーって思って」
「…で?」
「で、って?」
「そんだけの用件でヴァリアー本部に来やがったのかテメェは」
「うん、まぁそうなるけど」
「帰れ」
「酷!?」
「酷くねぇッ!」
 大げさに反応してみせると、スクアーロはバンッと机を叩いて立ち上がった。そして場所が場所だからだろうか、左手に剣は現れなかった。そこまで考えていたわけではないのだが、予想外の幸運である。
 いや、実は多少は予想してきたのだけれど。
 …言ったら殺されるかもしれない。
 死にたくないから心の声は外に出さないことにして、まぁまぁとディーノはいつものような明るい笑顔を浮かべた。
「そうカリカリすんなって、な?折角久しぶりの再会なん……」
 その言葉の途中に。
 ヒュンと音が鳴り、頬に鋭い痛み。それと、背後の壁にて何かが衝突……いや、突き刺さったかのような音。
 振り返ろうか振り返るまいか。血が滲んでいる頬に触れながら考え、結果、恐る恐る後ろを振り向いたディーノはそれを見て表情を凍らせた。
「ナイフ…?」
「相応の報いだろうがぁ」
「相応って…」
 席に腰を下ろし、再び嫌いだと言っていた書類仕事に戻っていたスクアーロに視線を向け、ナイフに視線を向け、何度も両者を見比べながら、ディーノは冷や汗が流れ落ちるのを感じた。相応などと言ってくれるが、同盟ファミリーのボスにそれはないのではないだろうか。
 というか、絶対にアレは当たってもいいやくらいのノリで投げただろう。
 仕事を少し邪魔しただけで殺されるなんて、そんな死に方はゴメンだった。
 なのでしばらくは大人しくしていることにして、何となく壁に刺さったナイフの所に向かった。壁から取っておこうと思ったわけ、なのだが。
 案の定と言うべきか。
「痛…っ」
 取り外すときにうっかりとナイフの刃の部分に触れてしまい、指から血が出た。しかも、頬よりも深く切れているようで、こちらは実に勢いよく血が出てくる。ということは、ナイフ投げは多少の手加減は加えていてくれたと言うことだろう。本当に『相応の報い』になるようにしていたらしい。
 もしも相応でなく報いを、なんてことになっていたら、今頃ディーノの目は何も映さない虚ろな物になっていたかも知れないということだ。
 …今更、それに対して何かを思ったりはしないのだが。
 それよりも今は指の方だ。
 くるんと机に向かっている鮫の方を向いて、呼びかける。
「スクアーロ、包帯どこ?」
「…待て」
 ぴた、と手を止めて彼はふっと顔を上げた。やや、引きつっているようだが。
「テメェ…包帯、つったな?」
「まぁな。ちょっと手を切っちまったから」
「そう言うときは絆創膏だけで充分過ぎるほど充分だぁ!あとテメェは何もするんじゃねぇぞ、このへなちょこがぁ!」
「スクアーロ、だから俺はもうへなちょこじゃないって」
「あ゛ぁ確かに『跳ね馬』だがなぁ……今この瞬間、部下のいないこのときなら間違いなくテメェは未だに『へなちょこ』だぁ!」
「…否定できないな」
 思わず俯く。前よりはしっかりと出来るようになったと思うけれど、やはり彼の中ではそういう認識なのだなと確認出来てしまえば…少しは落ち込む。
 ずん、とディーノが纏う空気が重くなったのを感じたらしい。スクアーロはどこか呆れたように息を吐いた。
「ったく…テメェはそこのソファーに座って待ってろ。救急箱持ってきてやる」
「…え?」
 その言葉に顔を上げれば、彼は既に部屋から出て行く所だった。
 …そういえば、昔からこんな感じだった。認めているかと聞けばそうじゃないと返されて、でも最後まで見放されることも無くずっと面倒を見てくれて…昔から変わらず、今も。
 だから、少し笑う。
「それ、お前が俺をありのままに受け入れてくれてる証だよな、どう考えても」
 きっと言えば否定されてしまう言葉だろうけど。
 きっと。







この二人にも腐れ縁って当てはまるんじゃないのかな、みたいな。
そんな感じのお話たちでした。
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