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番外編と言うか何と言うか。いつものと比べると凄い長いです。



「歌子、起きて……歌子、ってば」
「ん……あと二十三時間五十九分六十秒……」
「それって一日中だよ……良いから起きて」
「じゃああと十五分くらい」
「ダメだよ。学校があるんだから」
「……仕方ないわね」
 どうしてもこれ以上の睡眠は杏里に邪魔されると判断して、歌子はゆるりと目を開いた。
 窓から差し込む光は淡く明るく、今この時間が朝だという事を伝えている。まぁ、学校があると言うのだからこの時間が昼だと、少々どころではなく問題が起こってしまうのだけれど。何せ杏里は学級委員。そんな彼女が遅刻するなんて問題にしかならない。
「だからって、別に私の方は遅刻しても良いと思うんだけれど……」
 欠伸をしながら杏里が用意した朝食を食べて、それが終わったら制服に着替える。
 自分の食器は全部彼女が流しに持って行ったので、テーブルの上にはもうない。けれども彼女は洗ってはおらず、水に浸して放置している状態だ。そういえば今日は自分が洗い物当番だったかと、そんな事をふと思う。
 とりあえずそれは、学校から帰っての話だが。
 そして……これがいつも通りの一日の始まり。
 それに満足も不満も覚えずに、歌子は同じく制服に着替えた杏里を見た。
「じゃあ、行きましょう」
「今日は、体育で剣道やるみたいなんだけど……私以外だったら、手加減してね?」
「大丈夫よ。どうせ貴方以外に私と組もうなんて女子はいないわ。強いて言うなら美香かしら。でもあの子は例外でしょうし……そもそも剣道場に出てくるかどうかさえ疑わしいわ。外では男子がサッカーやるんでしょう?なら、そっちの応援に行きそうだわ」
「張間さん……最近、ずっと矢霧君につきっきりだしね……」
 最近付き合いだした二人組を思い出したのか、杏里は何とも言えない表情を浮かべた。
 無理も無いと思う。その前までは杏里と美香はよく傍にいたのに、今ではそんな時期があったのだと言う事が嘘みたいな様子なのだから。
 もっとも……同じように傍にいても歌子の場合、美香が離れてしまった事にそれ程思う所があるわけでもない。むしろ彼女に付き合ってくれるような男に対してこそ、思う所があるような状態だ。彼は、一体どうしてストーカーと付き合うつもりになったのだろうか。
 ワケが分からないが、その前後で出来た美香の首をぐるりと一周するような傷が、もしかしたら何か関係があるのかもとは思う。
 ……訊く気も無いから、多分ずっと謎のままだろうが。
 それも含めてどうでも良いか、と、今までの思考を全て投げ捨てながら、歌子は杏里と共に学校へ向かう道を進む。
「そういえば一週間前は大変だったわね」
「あぁ……贄川先輩の事?」
「えぇ。全く、貴方は那須島に何の興味も無かったと言うのにね……濡れ衣でしかない」
「でも、歌子は贄川先輩の事を否定しない……よね」
「しないわ。愛ゆえの行動だと言うのなら、そしてそれが本当なら、否定は出来ないわ。それに……あの人のお陰で私は静雄に会えたわけだし、そこは感謝してるの」
 池袋にずっと住んでいたのだから存在は知っていたけれど、初めてすぐ傍で見た、自分と杏里の事を助けてくれた彼というのは本当に本当に格好いいと思った。その瞬間に、この人を愛したいと、歌子は思ったのだ。
 池袋最強と呼ばれる存在を思い出して恍惚に浸っていると、横からぽつりと冷たい言葉。
「……静雄さんの事が好きなのは分かったけれど、犯罪とかは絶対に止めてね」
「何よ……杏里、貴方、私を何だと思ってるの?」
「好きな人を監禁しかねない子……かな。…襲うこともありそうだよね」
「……その認識は正しいと言う他ないわね」
 実際、そういう計画を立てて実行しかけた事はあった。一回だけではなく、二回も三回も何回も。ただ、事あるたびにあの情報屋が邪魔してくるので、どうやっても計画が成功しないのである。
 ここ一週間のアレコレを思い出しながら、これらの事実はずっと伏せておこうと歌子は心に決めた。ばれたらしばらく食事の量を減らされてしまいそうだし、監視の目がきつくなりそうだ。
 そんな事を思っているうちに学校へと辿りついて、二人はそろって同じ教室に入る。
「あ、杏里さんと歌子さん。おはよう」
「よ、ツインズ。相変わらず二人とも今日も可愛いなー?」
 するとすぐさま聞こえてくる二つの声……の片方に対して、思わず息を吐いた。
「……あ、おはようございます」
 歌子の隣では杏里が頭を軽く下げて返答していて、毎回の事とはいえどうしてクラスメイトにまで頭を下げる挨拶をするのかと、ほんのりと呆れる。
 呆れながらも、とりあえず、とこちらも挨拶を返しておく。
「おはよう帝人。今日も良い天気ね」
「あれ?歌子ちゃん……何で俺は無視!?」
「あら、いたのね正臣。おはよう。そして教室に戻りなさい」
「酷いぜ歌子……はっ、お前、可愛いとか言われて照れてるのか!?前々から疑惑はあったが、まさか本当にツンデレぶっ!?」
「煩い」
 鞄を投げつけポツリと呟き、歌子は据わった目を正臣に向ける。
「あーあ……正臣、歌子さんにツンデレとか言ったらダメだって分かってるでしょ……?」
「ごっ……ごめんなさい!歌子がまた……っ」
「き……気にするな……っ……俺の屍を越えていけ…ぇ……ばたっ」
「ばたっ、て、自分で言う物じゃないでしょう……」
 ほんのりどころではない呆れを抱きながら呟いて、そこで予鈴がなったので、この場はこれでお開きになった。
 その後もいつも通り。普通に授業を受け、剣道の時間はやっぱり杏里と組んで……美香はいなくて、昼休みは四人で一緒に食べて、午後の授業を受けて。そうして、放課後は四人で一緒に池袋の街に出る。
 そこで出会うのが門田、狩沢、遊馬崎の三人組。渡草も入れたらこちらも四人組だが、ワゴンの運転手はワゴンで留守番をしている事が多いらしく、そう滅多に会うような事は無かった。
 正直……歌子は遊馬崎にだけは会いたくなかった。彼は事あるごとに自分をペタンコ少女と呼び、それが酷く不快なのである。だから何度も何度も何度も何度も、言われるたびに制裁を繰り返しているのに、彼ときたら全く怖気づく事が無い。
 厄介なことこの上なかった。
 というわけだからか、今日も。
「歌子ちゃんは相変わらずペタンコ少女っすねぇ。お願いですからそのまま大人になって欲しいっすね」
「あ、それは私も思う!ナイスバディな杏里ちゃんにぃ、ちょっと胸無しなうたやん!とーっても素敵な双子ちゃんだよね!」
 ……いや、今日は狩沢が入ってきたからいつも以上に厄介だった。
 こうなると厄介じゃなくて災厄なんじゃないかと思いながら、杏里と自分の胸を比べる。
 ……ため息しか出ない。
「……男の人って、やっぱり胸が大きい方が好きなのかしら」
 僅かに落ち込みながら呟くと、困ったような表情を浮かべて門田が頬をかいた。
「人によるんじゃねぇか?……つーか歌子、こいつらの言葉は気にしてたらキリねぇぞ」
「そうだよ歌子さん。む……胸の大きさが全てとかじゃ、無いんだし」
 それに続くように絞り出された帝人の、恐らくだが励ましの言葉を耳にして、正臣がにやにや顔で彼の顔を覗き込んだ。
「んー?帝人ぉ、胸って言葉一つ言うのにつっかえちゃって……あぁ、思春期だねぇ」
「思春期って……正臣もじゃないか」
「ちちち。甘いな。俺は思春期を超えたスーパー思春期に突入してんの」
「わけが分からないよ!」
「これが分からないとは……まだまだお子様だな」
 ふ、とか笑う正臣が少し鬱陶しかったので殴ろうかと思ったが、止めた。別に悪い事と思ってとどまったわけでは無くて、単に杏里の視線が痛かっただけだ。どうやら、自分のやる事が分かったようだけれど……何で分かったんだろうか。
 思い返すと、杏里は何時もそうだ。歌子が少し強硬手段に出ようとすると、いつもいつも邪魔をする。あるいは妨げて『くれている』と言うべきかもしれないけれど、余計な御世話だとも思うのだ。相手を殺そうと思っているわけではないのだし、警察に世話になるようなへまはしないつもりだから。
 警察、といえば。
 そういえば最近、都市伝説の黒バイクが白バイに追いかけられる場面を良く見るようになった。誰もかれもがそれを一つの風景として今や受け入れてしまっているけれど、それは歌子も同じだったけれど……何故か、それを見るたびに黒バイクが半泣きで逃げている様な気がするのである。本当に何でだろう。
 しかし……杏里は、あんな都市伝説のどこが良いのだろうか。贄川春奈の行動から彼女を助けてくれた一人である黒バイクだが、だからといって歌子はあの存在を好きになれない。理由は分からないが、もしかしたら人間ではないからかもしれなかった。
 得体が知れない、と言うべきか。
 存在が不快と言うべきか。
 少なくとも、自分が愛する様な存在ではないと言う事だけは、事実だった。
 そして、それでもう十分なのだ。
 胸の話とは別の意味で不快なこちらの思考も断ち切って、歌子は胸についての話を始めてしまった狩沢と遊馬崎の二人組と、帝人をからかう正臣という二人組の方に入ってしまった三人目の杏里を眺めて、薄く微笑んだ。
 そんな歌子の表情を見てか、門田が口を開いた、
「嬉しそうだな」
「嬉しいんじゃなくて楽しいの」
「そうか」
 何の違いがあるのだと言う事も無く歌子の言葉を受け入れた門田という人は、とても付き合いやすい相手だった。彼の事を尊敬をしているわけではないが、たまに話を聞いてもらいに行く事があったりした。杏里に訊かせられないような悩みと言うのも、たまには存在しているから彼のことは重宝している。
 それに何より……彼くらいのものだろう。狩沢と遊馬崎をどうにかできる可能性を持っている存在は。
 そんな点でも彼は本当に貴重だと、そんな事を思っていると。
 ふいに大きな音がして、そちらを向けば自販機が宙を舞っていた。
 しかも、案外近い。
 つまり……それが差す事とは。
「……京平、私はこれから行かなきゃいけない所があるの」
「は?」
「じゃあ、そういうことだから行ってくるわ」
 顔中にクエスチョンマークを付けている彼にそれ以上構わず、歌子は人込みをすり抜けるように走りだした。走ろうとする直前、自分の様子に気づいた様子の杏里に追いつかれ、捕まる事が無い様に巧みに、迅速に。
 こんなところで捕まってたまるか、というのが歌子の偽らざる気持ちである。折角近くに彼がいると言うのに、会いに行くのを妨げられるなんて拷問でしかない。
 だから走る。
 走って走って走って走って。
「静雄!」
 曲がった角の向こう側に見つけたバーテン服の背中に、歌子は勢いよく飛びついた。
 それに体勢を崩す事も無かった池袋最強は、体をひねって後ろ側を見て、それから、困ったような表情を浮かべる。
「歌子……お前、俺はまだ仕事中だって分かってんのか?」
「分かってるわ。だから自動販売機も一個しかまだ飛んでないんでしょう?それにあそこに貴方の上司もいるし。でも、問題ないわ。一緒に行きましょう」
「や、問題しかないだろ」
「邪魔しないから、お願い!」
「……仕方ねぇか」
 一生懸命さが伝わったのか、一回息を吐いた後に彼は歌子を引き剥がして……直ぐ隣に、ぽん、と落とした。
 そこで無様に知り持ちをつくようなことも無く、上手くバランスを取って笑う。
「今日は情報屋が来なければいいわね」
「あー、そうだな。来たらお前はトムさんと一緒に逃げろ。巻き添えにはしたくねぇから」
「加勢くらいするのに……」
 少し不満に思いながら呟くが、それが彼が自分を心配してくれているからこその言葉であると理解しているから、それ以上は食い下がらずに頷いた。
「でも、そう言うなら従うわ。気が変わったら言ってね」
「そんな事にはならねぇよ」
 応えた静雄は微かな笑みを浮かべていて、そんな表情が見れた事に嬉しくなって、歌子は心の底から笑みを浮かべた。
 
 
 
 ……何でこんな夢を見たのだろう。いや、そもそも何で夢を見たのだろう。
 ゆるり『目』を開けて、思う。
 不思議な話だ。あんなもの、一度たりとも見た事が無い。自分はいつもいつも愛の言葉を叫んでいて、人間で言う睡眠を取った事が無かったからそれは当たり前ではあったけれど、ならばどうして今回はそれを見たのだろう。
 そうして何かに違和感を覚え、目を細める。
「…変ね…?何だか妙な気分…」
「それは…妙な気分だと思うよ……?」
 と、何故だか『外』へと零れた『空気を震わせる呟き』に、誰かの言葉が答えた。
 全く状況が理解できないまま頭を動かすと、そこには宿主である杏里の姿が『見える』。
 どういうことかと首を傾げる事も、ましてや疑問を抱く事も出来ないまま、ただただ呆然としていると、感情に乏しい声で、杏里は言った。
 
 
 
「おはよう…罪歌」
 
 
 
 それが、何の変哲もない月曜日の朝の話。












要するに、序章の序章です。
歌子は本編で出した(出てる)偽名ですよ。

ifな夢。もしも罪歌が人間だったら。そして池袋の住人だったら、という。
そして罪歌が人=妖刀は無い=リッパーナイトもない。的な展開で書いてます。
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