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最近、番外編しかupしてない気が。…気のせいじゃないな。
「……ねぇ、杏里。一つ訊かせて欲しいの」
「何、かな?」
「何であんなのと親しく会話できるの?」
「……あんなの?」
「赤林よ!」
彼女が言う『あんなの』が何なのか分からず首を傾げると、言葉がうまく伝わらなかったイライラが籠ったかのような絶叫が返ってきた。
その事に杏里が受けたのは、衝撃。
叫ばれた事に対して、ではない。こんなもの、今までずっと聞かされ続けてきた罪歌の愛の言葉たちと比べたらどうという事も無い。けれども、彼女が赤林を……人間を、『あんなの』呼ばわりした事だけは聞き流す事が出来なかった。
罪歌という妖刀にとって、人間というのは全て愛の対象である。臨也、という例外も存在するようになった最近ではあるが、彼女のその在り方に代わりなど無いはずだ。だというのに、今、彼女は人間を『あんなの』と呼んだのである。
驚くな、と言う方が難しかった。
「ちょっと、杏里?聞いてるの?」
「え……あ、ごめん……ぼうっとしてた」
「しっかりして。貴方は私の宿主なんだから。で、何で?」
「その前に……私からも質問。どうして、赤林さんの事を『あんなの』って呼ぶの?」
「……昔ね」
答えられないかもしれない。そう思いながら投げかけた問いに、罪歌は少しだけ躊躇うかのように口ごもり、躊躇いながらもポツリと言葉を紡いだ。
「……フラれた事が……あって」
「……………え?」
そうして告げられた予想外の言葉に、再び杏里は固まった。
罪歌と赤林に接点があった事でも、赤林が罪歌を『ふることができた』という事でもなく、その事実を罪歌が気にし過ぎている様にしか見えない事に対して衝撃を受けて。
唖然とする杏里に構わず、罪歌は言葉を続ける。
「あんな事……初めて、だったから。驚いて、奥に下がっちゃって……。それ依頼、私、あの人の事が苦手なの」
「……静雄さんに関しては?」
まだ完全に現実に戻ってきたわけではない思考を働かせて、絞り出すように問いかけると、罪歌はゆるりと首を振った。
「静雄と赤林は違うわ。静雄は、私たちを受け入れなかったけれど、それでも受け入れてくれたもの。赤林は……完全否定に近かったし……黙れだなんて言われたし……やっぱり違うわ。取っても違う。だって、黙れ……だなんて……」
「罪歌……」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべる元妖刀を前に、何と言葉をかければいいのかと杏里は惑った。本気で落ち込んでいるようだから、滅多な事は言わない方が良い。例えば、先代の宿主であった母と赤林が衝突したのかとか言う問いとかは。とても気になっても、とにかく赤林関係の話は今の罪歌に振るべきではない。
……のだけれど。
それ以外でどうしても言いたい事があったので、多少彼女を傷つける結果になる可能性はあったが、とりあえず気持ちに素直に思ったままを口にする事にする。
「黙れって言うのは……何となく納得かも」
「何で!?何でなの!?」
「だって、罪歌の愛の言葉って、一気に私たちを押し流すみたいな量ほどあるから……しかもやけに声が大きいから……」
もしも正気を保っていられるなら、押し流されなかったら、そういう言葉を贈られる可能性だって無きにしも非ずだろう。
そして赤林がそういう人間であったと言うわけで。
「今度から、少し控えめに愛の言葉を囁いてみたらどうかな」
「あれ以上控えめにしなければならないの?」
「……………あれで控えめなの?」
「控えめよ?」
赤林にフラれてからちょっとくらいは自分でも考えたんだから。
どこか自慢げにそう続ける罪歌に、杏里は返す言葉を見つける事がなかなか出来ず。
「じゃあ……消え入りそうな声で囁くつもりでやればいいんじゃないかな」
数秒後、やっと見つけ出した言葉はそんな頼りない物。
本当は愛の言葉を紡ぐこと自体を止めて欲しいのだけれども、流石にそこまで彼女に求めるのは無謀というものだろう。
そんな諦めを知らないだろう彼女は、でも、と首を傾げた。
「そうなると、幽霊が喋ってるみたいになるんじゃないかしら。そっちの方が問題じゃないかと思うんだけれど」
「……あ、それもそうかも」
「大きくても小さくても音量はダメ……つまり、丁度良い音量っていうのを探さないといけないという事なのね」
大変だわ、と真剣に呟く罪歌。
そんな彼女を見て、何となく……微笑ましさを覚えたのはどうしてなのだろう。
フラれた経験から、絶対に罪歌は赤林さんが苦手だと思うのです。もう一度相手しろって言われたらまわれ右したくなるくらい気にしてると良いな。
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