式ワタリによる、好きな物を愛でるブログサイト。完全復活目指して頑張ります。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ご無沙汰です。数日ぶりです。
正月シリーズ第四段・着物。
罪歌と杏里のお話です。
「着物……か」
ぽつり、と。
軽くもはっきりと零された罪歌の呟きに思わず顔を上げて視線を転じてみると、彼女もこちらを見る……かと思いきや全然そう言う素振りも見せず、じぃ、と一冊の雑誌を見つめていた。
それは自分が買って来たものではない。あまり自分はそんなものに興味は持たないし、興味が湧いたとしても立ち読みで済ませてしまう。けれども彼女はそうではなかったのか、あるいはそう出来ない程に気になったのか、一冊ほど雑誌を買ってきたのである。そして、そういえば……その雑誌が着物・振袖特集を組んでいた気がする。
成程、唐突な呟きの理由はそれなのか。思い、納得しながら、杏里は筆記具を机の上に静かに置いた。
そして、尋ねる。
「着たいの?」
「着たくないと言えばうそになるわね」
ぱさ、と雑誌をベッドの上に投げ捨てて、ベッドの上でうつ伏せて雑誌を見ていた元・妖刀は、枕に手を伸ばし引き寄せ抱きしめながら、今度は仰向けになった。勿論下りていないのでベッドの上で、である。
頭のすぐ横にある雑誌に目もくれず、彼女は言葉を続けた。
「昔から気になっていたのよ、着物とか振袖とかって。でも私、元の姿のままじゃあ着物なんて着れないでしょう?」
「切れはするけれどね」
「えぇその通り。だからずっと憧れてたの」
「ふぅん……貴方でも、そういう事に興味持ったりするんだね」
この人ならざるモノの頭の中には人類への愛しか存在していない。それは間違いのないことだと、宿主のような物である自分は事実として受け止めている。だからこそ、そんな彼女が人間以外に興味を示している事が何となく珍しい。
そんなこちらの気持ちが手に取る様に分かるのだろう。罪歌は苦笑を浮かべて上体を起こし、軽い調子で手を振った。
「そんなに強い憧れでは無かったけれどね。でも、私だって女の子だもの。少しくらいは着物とか……衣類に興味をひかれたりはするわ」
「でも、実用重視なんでしょう?」
「当然」
確認するように訊けば、当たり前だと言わんばかりに頷かれた。
「いざという時に人を愛せないなら、どんなお洒落にも意味は無いもの」
「着物なんて、動きにくそうなことこの上ないけれど……?」
「動きたくなったらスリット入れるわ、スリット。チャイナドレスみたいな感じで。……多分、それでどうとでもなるでしょう」
「なら始めからチャイナドレス着てた方がいいんじゃないかな……」
「あら?杏里、貴方は私にチャイナドレスを着たまま街中を歩けというの?」
「それは全力で遠慮したい、かな」
ただでさえ自分と彼女は似たような顔をしているのだ、そんな事をされたらたまったものではない。街中を歩くというなら着物もチャイナドレスも似たようなものだが、どちらかといえば前者の方がマシだろうから、出来ればそちらにして欲しい。いや、何にせよ世間一般の定義における『普通』の状態であってくれる事が一番なのだが。
それは……なかなか難しいのだろうか、と、杏里は彼女にとっての『普通』を思い浮かべた。まったく、それを考えると事件らしい事件が起こっていない今という状況が、とても素晴らしく奇跡的なものな気がする。
しかし、それにしても。
先ほどの罪歌の発言に少し引っかかるものを感じて、首を傾げる。
「もしかして……街中に出ることは必須、なのかな」
「当然でしょう」
すると即答された。
あぁやっぱりそうなんだ……と思い、内心で軽く息を吐く。
「もしかしなくても……静雄さんに着物姿、見せに行くため?」
「それ以外に何があるっていうの」
また即答されてしまった。
まぁ、確かに彼女にとっては決まり切ったことだろう。同時に、それは自分にとっても決まり切った事でもあった。彼女の様子を普段からずっと見ていて、その結論が分からないワケが無いのである。
つまり、彼女はそれだけ自分と言うものを隠していないのだった。
その真っ直ぐさは呆れるやら感心するやらで、ほんの少し羨ましく思いもするが、今はそんな感情は脇に置いておいて。
「でも、罪歌」
ちょっと、現実的な話もしておこう。
「着物って、高価だよ?レンタルもお金がかかるし」
「分かってるわよ」
流石に着物の下や横に書いてある数字の零の数は見落としていなかったらしい。あっさりと罪歌は首を縦に振った。
そうして肯定を示した後、続けて言った。
「だからそこはどうにかあの情報屋から現金をせしめるつもりなんだけど」
「お願いだから止めて」
杏里ちゃんは常識がある子。
しかしこのブログの罪歌出現率半端ない…。
PR
この記事にコメントする