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まぁ、放っておけませんからね。
セルティにお願いした話について。
結論だけ言うと、ダメだった。
『済まない、杏里。今日は大きな仕事が入っているんだ』
…と、曰く、そういうことで。
結果。
「…はい、今朝起きたら少し熱っぽくて…はい…はい、そうなんです。ですから、今日はお休みさせてください……はい、すみません。失礼します」
仮病を、使うことになった。
受話器を戻して、ため息をつく。出来れば使いたくなかったけれど、こうなってしまっては仕方がない。とにかく罪歌を一人にする事だけは阻止しなければならなかったのだ。
きっと帝人や正臣は心配するだろうと申し訳なく思いながら、くると振り向く。
そこには、杏里の私服を着ている罪歌の姿があった。
気にいる服が無かったらしく、やや不満そうな顔をしながらも大人しくしているのは、ひとえにそれ以外に服が無いからだ。元が日本刀とはいえ、何も着ずに裸でいるのは嫌らしい。これには人格が女性だというのも影響しているのだろう。
同じく私服の杏里は、両膝を抱えて座っている罪歌の隣に腰を下ろした。
「……」
「……」
けれども互いに沈黙。
自分は話す事が無くて、彼女は話す気が無いのである。
音のない空間が生まれたけれど、別にそれは苦にはならない。元々こちらの空気の方が馴染みやすいと言えば馴染みやすいのだし。
ではそれに関して罪歌はどうかといえば、きっと彼女も問題視していない。嫌だったら口を開くだろう、何事においても一方的な彼女は。
だから丁度いい機会だと、これからについて思いを巡らせる。
これが今日だけの話ならばいいけれど、明日、明後日と続いていくならば別の対策を考えなければならない。仮病だって、そう使って良い手ではないのである。使わなければならないなら使うしかないとはいえ、これには使える限度があるのだ。
ならば、罪歌を学校に連れていくというのは……被害者が増えるだけか。
しょうがないから一人放っておくというのは……もってのほか。
今日みたいに誰かに預けて見ててもらうのは……いつも都合がつくわけではないし。
椅子によく縛り付けてからの放置というのは……紐を刀で切られそうだ。
では少し危ない気がするが睡眠薬というのは……彼女にそもそも効くだろうか?
「……」
万事休すだった。
そもそも、こんな状況をどうこうしようとするのが間違いなのかもしれない。どうこう出来るような普通の状況ではないのだから。
が、それでもどうにかするしかないのであり。
「…はぁ」
行き止まりに行き当たったまま身動きが取れなくなるのだった。
「…何ため息ついてるの、貴方」
「……何でもない」
「そ。ところで…外、出るわよ」
「…え?」
「暇なんだもの」
突然の言葉に呆然としていると、あっさりと罪歌はそんな事言って立ち上がり……あろうことか、座ったままの杏里の手を引いた。
「貴方も来なさい。仮病を使ってまで私の傍にいたいらしい貴方を、特別に一緒に連れていてあげるわ」
「で…でも、私、仮病使って…」
「なら、変装でもなさい」
そう言う彼女のもう片方の手には帽子があった。
「帽子一つでも人間の印象って結構変わるでしょ?あと、眼鏡も取りなさい」
「でも……」
彼女が本気であるのは分かった。
けれど、だからといって頷く事も首を横に振ることも杏里には出来ない。仮病を使った後ろめたさと、罪歌を一人にしてはならないという決意とが、そのどちらをも邪魔する。
煮えきらない自分の様子が気にいらなかったのか、不機嫌を強く顔に出した。
「…言ったでしょう?貴方の『でも』も貴方の事情も、私には関係ないって」
「…見つかったらどうするの?仮病を使ったのに…」
「そんなの私に関係ないわ……と言いたいところだけど、そうね、特別にその目撃者も愛してあげる事にするわ。これで問題ないでしょ」
「…全然問題解決になって無い……」
「…もうそんなのどっちでも良いわ」
ぐ、と罪歌は杏里の手を握る手に力を込めた。
「とにかく私は行く。貴方も行く。決定よ!」
そうして引き上げられた自分と目を合わせて、にこりと笑った。
「だから財布、ちゃんと持ってきなさい。服を三着買えるくらい」
……どうやら、彼女は服を買いに行きたいらしい。
果たして三着で済むのかどうか。
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