式ワタリによる、好きな物を愛でるブログサイト。完全復活目指して頑張ります。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ネット環境がないという杏里の家だけど…電話くらいはあるよね…?
「……成程、つまり…私は好きに人間を愛せるということね?」
「えっと、それは止めて欲しいんだけど…」
「止めてあげる理由なんてどこにもないわ」
「…でも」
「でもも貴方の事情も関係ないの」
嬉しそうに嬉しそうに罪歌は言う。
それはまぁ、嬉しいだろう。何せ、彼女は初めて自分の体というものを手に入れたのだ。自分と一緒にいる時とは違って、彼女は好きな時に好きなところに行ける。切り裂いた相手以外とも話す事が出来る。
久しぶりにスッキリとした頭で、杏里は現状整理を続ける。
罪歌は『ここ』にいて、自分の外にいるけれど…まだ、体の中に『罪歌』がいることは感じられた。多分、目の前にいる彼女は罪歌の核、あるいは意思のような物なのだろう。だから、彼女も体から刀を取り出す事が出来たりするのだと思う。やっぱり彼女は『罪歌』なのだから。……危ない話だけど。
そして、ここまで考えると絶対にたどり着く問題がある。
彼女を、どうしようという問題だ。
セルティに頼もうと電話をしてはみたが、まだ返事は来ていない。留守電には『緊急事態 時間があったらきてください』と残してあるから、返事の前に黒バイクが家の前に訪れる可能性もあるけれど。
出来れば、返事でも何でも良いから家を出る時間の前に反応が欲しい。
今回のこの事態ばかりは蚊帳の外にいるワケにはいかないし、いざとなったら……風邪を引いたと嘘をついて休むしかないだろう。
ちょっと気は引けるけれど。
自分がいても、あまり意味がない気もするけれど…。
とりあえず、気休めくらいにはなるだろう。
「…大丈夫よ、そんな無差別に愛さないであげるから」
「え…辻斬り事件引き起こした原因にそんな事言われても……」
「あれは私の子供がやったことじゃない」
「じゃなくて五年前とか…」
「あれはあれ、これはこれなのよ。…とにかく!」
ぐ、と拳を作って罪歌は勢いよく立ちあがった。
「今の私の最も愛する人は平和島静雄!だから私はあの人を愛し抜く事にするの!」
「愛し抜くって…お願いだからストーカーにはならないでね?」
「……貴方、さっきから結構酷い事言ってるわね」
じっと見下ろされて、杏里は首をかしげる。そういえば、彼女の言う通り。どうしてだろうと少し考えて、相手が罪歌だからだろうと結論付ける。何だかんだで付き合いは長く、五年間なのである。寄生している相手ではあっても、そこそこ気心は知れる長さだ。
首をかしげたまま自己解決してしまった杏里から視線を外し、罪歌はため息をついた。彼女から見たら、きっと自分はぼうっとしていて反応ゼロの対象だ。
「…まぁ良いわ…それより、外に誰かいるみたいだけれど」
「…!」
次は杏里が立ち上がる番だった。
二人分の朝食が用意された食卓から離れ、スリッパをパタパタと鳴らしながら急いで玄関へ向かう。
果たして。
『おはよう。留守電を聞いたけれど、何があった?』
そこにいたのは待ち人だった。
「とりあえず…上がってください。見てもらった方が分かりやすいです」
いつも通りの黒づくめに安堵を覚えながら、セルティを家に上げる。
そうして食パンを齧っている罪歌がいる場所へ辿り着いた時、さすがの首なしライダーも呆然としたらしい。手に持っていた文字を打ち込む機械を床に落としてしまった。
「…あら、訪問者は貴方だったの、化け物。何の用?人間じゃない貴方に興味は無いわ」
「……私が呼んだの、罪歌」
「貴方が?…そういえば電話してたわね」
『ちょっと待ってくれ』
ようやく現実世界に復帰してきたらしいセルティは、顔が見えなくても分かるくらいに困惑していた。無理もない話だが。
『罪歌?罪歌と言ったか?』
「…はい。彼女は罪歌です」
『杏里が分裂したかと思った…』
「流石に分裂は無理です…」
「出来たら人間じゃないわよ。というか人間以外だって出来る存在は少ないでしょ…」
『あぁ…びっくりした。緊急事態は分かったけれど、それで、杏里は私に何を頼みたいんだ?呼んだという事は、何か用件があるんだろう?』
その言葉に、応える事を杏里は少し躊躇った。先ほどの様子からして罪歌がセルティの下で大人しくしているとは考えられず、そうすると頼みこむのは迷惑を押しつける事と同義かと思えたのである。
それでも、これは必要な処置だから。
首なしライダーにお願いすることにする。
「えっと…私、今日、学校なんです。だから、私の代わりに罪歌を見ていてくれませんか?」
学級委員だからね。切実な話だよ。
PR
この記事にコメントする