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留美と学園所有者の話。
…ソーマの話も書いてみたいよね。
15.参加賞
「……体育祭の参加賞?」
「そうなのよ、それなのよね」
にこ、と笑って学園所有者は足を組み直した。
「ほら、この学園って結構そういう行事の参加率って高いでしょ」
「…それはサボりでもしたら貴方が恐ろしいからなのでは…」
「ともかくそういうわけだから!」
留美のツッコミをスルーして、ヴェーダはばっと立ち上がった。
それからグッと拳を作った彼女の背後にやる気の炎が存在しているような気がして、留美は小さくため息を吐いた。何だかそれが見えてしまっては終わりだと思ったのである。まぁ、もう見えてしまっているけれど……わけのわからない炎。
どうして紅龍を連れてこなかったのだろう。こんな状況へとたった一人で落とされると分かっていたら、絶対に連れてきたのに。もちろん道づれとして。
思えば、のこのこと一人で彼女についていってしまったのが間違い。すぐに終わるという言葉を鵜呑みにして、紅龍を待たせて来てしまったことなんて、愚の骨頂としか言いようがない。彼のことは連れて来て、その上何人か巻き込むくらいの意気込みで対応しなければいけなかったのに。
そのくらいしないと、彼女から逃げることはできない。
他の人を犠牲にすることを躊躇っていては、逃げることなどできないのだ。
そもそもそれだけしても、まだ百パーセント逃げ切れると決まるわけでもないのだし…
「…留美?ねぇ、聞いてる?」
「…あ」
と、そんなことを考えていた留美は、ヴェーダの声によって現実世界に引き戻された。
眼前にある学園所有者の訝しげな表情に、曖昧に微笑んで答える。
「……申し訳ありませんけれど、ちょっと聞いてませんでしたわ」
「もう、しっかりしてよね」
「…………」
「さて、じゃあ、もう一度言うわね」
もの言いたげに向けられた視線を気にすることなく、彼女は言う。
「あのね、貴方に参加賞を用意して欲しいのよ」
「…そういったものは、学園の方で用意するべきではなくて?」
「それがねぇ…」
困ったように、ヴェーダは息を吐いた。
「ティエリアとハレルヤと刹那の喧嘩の後片付けにね……思った以上にお金がかかっちゃってねぇ……予算、もうそろそろヤバいの」
「…あぁ、そういえば前回のは酷かったですわね」
いつもなら単なる言葉の応酬で終わるハレルヤとティエリアの喧嘩なのだけれど、極稀に手が出て足が出て、偶に頭も……もちろん賢さではなく物理的な意味で……出るような喧嘩が起こることがある。元々、馬が合いそうにもない二人なのだ、そういう流れになることがあっても不思議ではないだろう。
ただ、それでも二人とも共通して学園所有者と結構な交流があったりするから、それほど大事には至らない。やらかしてしまったら、そのあと何が起こるかよくよく分かっている二人なのだ。
それでも耐えきれない時というのはどうやら有るようで、今回はそれに刹那が加わってしまったからとんでもないことになってしまったのだ、という話。
しかし、たとえそうだとしても…所詮は子供の喧嘩。そこまで困るようなことにはなっていないはずだと、留美は目を細めた。
「それで、ヴェーダ。本当はどうして予算がないんでしょう?」
「えっとね、私が無駄遣いしちゃったから」
「……協力要請は断固として受け付けないことにいたしましょう」
何に使ったんだと思いながらもそれだけを伝えると、ヴェーダは両手を顔の前で合わせて片目を瞑った。表情はほんのりと笑み。いわゆる『お願い!』のポーズだった。……その時にウインクもどきは必要ないだろうけど。
「そんな殺生な事言わないで、お願いだって」
「貴方の性格にいくらか改善の兆しが見えたら考えますわ」
「えー?今でもこんなにまともなのに?」
「…………貴方は貴方の常識と一般常識を照らし合わせる努力をするべきです」
「あ、それ昨日ティエリアにも言われたわ」
「彼の苦労が…分かろうというものですわね…」
からからと笑いながら言われると、こちらとしては苦笑をもって応じる他ない。
多分、この話はここで途切れたとしても再びどこかで繋げられるだろう。そして、きっと自分は了承するほかなくなる。
その時が訪れる事が容易に分かってしまうのだから、やはり、自分が今浮かべる事が出来る表情は、苦笑しかないのだ。
でも留美に任せたら参加賞がとんでもなく高価なものになりかねないよね。
でも留美に任せたら参加賞がとんでもなく高価なものになりかねないよね。
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