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実際、覚えてそうな気がする…。
18.カレンダー
その日。
どうしようもない程に落ち込んでいる刹那を見て、ティエリアが思ったことはただ一つ……鬱陶しい、だった。
だいたい、昨日まではあんな様子は全くなかった。それどころかエクシアを自分で磨き上げて「俺たちがガンダムだ…」なんて呟いていて、まさしく刹那節全開と言わんばかりの状態だったのである。
それが今日になって突然。
普通ならここで心配の一つでもするのだろうが、昨日、エクシアを磨き上げたそのままのテンションでガンダムに関するあれこれを聞かされ続けた身としては、そんな事をしてやる義理は無いと思うのだ。生憎と、自分はお人よしと呼ばれる人種ではない。
ロックオンかアレルヤ…いや、アレルヤはハレルヤが出てくる恐れがあるからやはりここは手堅くロックオンを連れてくるべきか。保身のためにそんな事を思い、行動に移そうとしたその瞬間。
何を思ったか前振りもなく顔をあげた刹那と、目が合った。
思わぬ事態にティエリアは固まり、刹那はそもそも動こうとする様子が無い。
そのまま膠着状態で秒針が進むこと、幾ばくか。
「…何が…あった?」
沈黙に耐えきれずに、ティエリアはついついそう、言ってしまった。
もちろん、その問いが危険な物であることは重々承知している。ただ、そう言わずにはいられなかった。そう言えと……促してくる刹那のオーラに耐えられなかったとも、表す事は出来るけれど。
何はともあれ、地雷を踏んでしまった事に間違いはない。
ごくりと唾を飲み込みながら刹那の言葉を待つ事数分。
「忘れていたんだ…」
ようやく、刹那が口を開いた。
その口から発せられた声が思った以上に深く暗い物であったことに驚きつつも、逃げるという選択肢が自分の中から完全になくなった事を感じた。ここまで来るとまさに、毒を食らわば皿まで…の状況である。
「な…何を忘れていたんだ」
「……記念日」
「記念日?」
何の記念日だと、首をかしげる。そんなものを口にされても、建国記念日くらいしかとっさには思いつかない。まぁ、そんなもの自分には全く関係ないし、刹那もそれほど興味はなさそうだから…別の何かの記念日だろう。
彼がここまで落ち込むのだから、ガンダム関係なのは間違いなかろうが。
「俺と…」
さらに五分経った後、再び最年少マイスターは言った。
「俺と……エクシアが初めて会った日…」
「…まさか…それが記念日だとでも言うのか」
「……」
返答は無かった。
けれども…この場合、無言こそが最も雄弁に肯定を語るのである。
そして、それを受けたティエリアの反応は呆れ、ではなかった。
驚愕、そして若干の恐れである。
自分自身、そこそこガンダムを初めて見て、愛機に初めて登場した時の事は覚えているし、ある意味であれが今の自分の『始まり』であったとは思う。だが、結局それはそれだけの話であり、細かい日付まで覚えているわけではない。
だが、刹那は覚えているようなのだ。
もちろん彼が一番最後に選ばれたマイスターで、愛機と出会ってからが一番短いという事も考慮に入れるべきだろう。しかし、だ。
今の彼の様子から、ティエリアは刹那が、いつまで経ってもそれを忘れないのだろうと、ほんの数秒ではあったが、思ってしまったのである。
言いかえると…思わされてしまったのである。
それほどまでに、刹那の様子は何と言うか……ガンダム一筋に見えた。
まさか、とティエリアは心の中で呟く。
まさか……彼のガンダムへの思い…否、想いがここまで深いものだとは思わなかった。呆れるなんてとんでもない、これはこれで、ここまで来れば驚き恐れるべき事柄だ。
「そ……そうか。それは残念だったな」
この恐るべきガンダムオタクからとっとと離れようと、ようやくその選択肢に思い至ったティエリアはくるりと踵を返す。これ以上ここにいて刹那の話を聞いていては、自分も彼に毒されてしまいかねない。
やはり慣れない事をするものではない。今日の今という時間を教訓としながら一歩足を踏み出した時、ふとカーディガンをひかれたような気がして振り返る。
するとそこには。
「……まだ俺とエクシアの馴れ初めの話が終わっていない」
しっかりと服の裾をつかんでいる刹那の姿が、あった。
馴れ初めって何だろう…。
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