火曜日の物語 ①目覚め際の殴り

次の日になりました。

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　朝起きたら目の前に一番嫌いな相手の顔があって、それを思わず殴り飛ばしてしまった事に関しては……仕方が無かったのだと言っても問題ないだろう。

　とりあえず右の拳を相手の顔にめり込ませてたままに、一体何がどうしてこうなっているのかを思い返そうと昨日の出来事を思い出す。

　確か、昨日は仕事が早く終わって暇だったので、池袋の街をブラブラと歩いていたら蟲に会った。だからいつものごとく自動販売機を投げ道路標識で殴りつけようとしてナイフを向けられて挑発を続けられて、けれどいつもと違って邪魔が入ったのだ。

　飛んできたカッターナイフに固まった所で現れた少女。

　それが罪歌だった。

　事情を杏里から聞いて、某有名ファーストフード店で現在殴りつけたままの相手のおごりで昼食を取り、店から出たところで確か…

「静雄、起きた？」

　…二人で、園原杏里の家に泊まりに来ればいいと罪歌に誘われたのだ。

　……何か、何かが違うような提案だったけれど、杏里が承諾し妙に臨也が乗り気だったせいで、そういえば静雄は巻き込まれるような形でこちらへ来たのである。

　が、来てもそうそうベッドやらが二個も三個もあるわけがない。

　よって、杏里と罪歌は月曜日の朝のように眠ると言い、自分たち二人は空いたスペースにて雑魚寝をすることになったのである。…だから目の前に臨也の顔が合ったのだと、今更ながらに静雄は思い至った。

　そして、今、ひょこ、とまだ寝ころんだままの自分の顔を上から覗き込むように見下ろす罪歌はにこりと笑んで、臨也の側頭部を踏みつけてしゃがんでいた。そんな事をするにはバランスが取り難い場所のはずだけれど、そんな様子もなく器用に静止している。

「朝ご飯は白米とお味噌汁だって。パン派なら食パン焼くけどって言ってたわ」

「いや…泊めてもらっといてそこまでは言わねぇよ。つーかそろそろどいてやれ。踏まれ続けてんの見てて何か……可哀想になってきた」

　右の拳を引きもどしながら起き上ると、丁度しゃがんでいた罪歌と同じ目線になった。

　目が合った彼女はとても嬉しそうに微笑んで、大人しく臨也の頭から降りた。

　そのままキッチンの方に向かっていった彼女を見送りつつ、隣でまだ目を閉じている情報屋に声をかける。

「あー…その…何だ。突然殴って悪かった」

「……シズちゃんが俺に自主的に謝ってくるほど今の俺って可哀想？」

「……」

「…ぐすん」

　否定も肯定も出来ずにいると、恨みがましい視線を向けられた。

「…どっから起きてたよ」

　泣き真似がうざいと思っても、流石にさっきの今だと怒りも湧いてこない。

　見た目だけは間違いなく年下に見える彼女に頭を踏みつけられていた事を思いながら問うと、ぽつんと、情報屋は答えた。

「…一番最初」

「………………………は？」

「だから、一番最初だって」

「最初…って…まさか」

「四人の中で一番最初」

「…ってことは……狸寝入り、」

「ぴんぽーん！」

　言って。

　臨也は横たわっていた状態から一気に立ち上がった。

「というわけで、シズちゃんの寝顔とか写メでとっちゃいました！」

「何やってんだてめぇぇぇぇぇッ！！」

「おぉと！」

　再び右手で拳を作って繰り出すと、臨也はひょいと半歩後ろに下がっていとも軽やかにそれをうわしてくれた。表情は余裕の笑み。…鬱陶しいことこの上ない。

「…けどまぁ、あれだね」

　次の攻撃を成す為にこちらも立ち上がろうとしたところで、しみじみと臨也は呟いた。

「狸寝入りしてたから面白いものも見れたけど、代わりに殴られて踏みつけられたんだねぇ……そこは失敗したなぁ…」

「っ…自業自得だろうがぁぁぁぁ！」

　勢いをつけて立ち上がり、そのままぐっと拳を後ろに引いて、

「とうっ」

　殴ろうとしたら横から飛んできた罪歌のとび蹴りによって、標的が真横に吹っ飛んだのですんでの所で動きを止めた。

　再び床に舞い戻る事になった臨也の頭を再び踏みつけて、彼女は言う。

「もう…朝から貴方の存在がいるだけでも十分に不愉快なのに、朝から静雄にちょっかい出さないで頂戴」

　その言葉に対して返事は無かった。気絶してしまっているらしい。

　…何故だろう。怒りはあっという間に消えて、代わりに目がしらがちょっと熱い。

「ご飯…出来ましたよ」

　何だかなぁ……と思っていると、台所の方から杏里の声が聞こえた。

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しかしあのアパートの部屋で四人が眠るって微妙に狭そうな…？
それにしても私のサイトの臨也さんは写メをフル活用してますよね。