甘楽の世界

タイトル名で、もうほとんど内容を表しているようなものですが…。

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「聞いてよシズちゃん。……俺、女の子になっちゃった」

「…………………………………は？」

　突然現れたかと思えば唐突にそんな事を言い出す仇敵に、思わず咥えていた煙草を地に落としてしまったのはきっと、仕方がない事だっただろう。

　呆然としたままの静雄に構う事など無く、臨也は心底うんざりしていると言わんばかりの表情で言葉を続けた。

「朝起きたら胸に変な物がついててさ、あれ？って思ったらこんなだったわけ。なんか髪も伸びてるしね。さらに言うと、波江もマイルもクルリも、俺が男だったとか言うと絶対に変な顔をするんだよ。何言ってんだろコイツ、前からヤバかったけど頭がそろそろ完全にダメになった？みたいな表情で……や、波江には実際に言われたけど…………あれは本気で傷付いたなぁ」

「…………本当か？」

「うん、本当。ていうか俺の嘆きは聞き流すんだね……まぁ良いや。嘘だと思うならあの双子に電話でもしてみたら良いよ？あと、新羅に確認取ったからアイツも三人と同じように思ってた。幸い、セルティは違ったけど」

　欠伸交じりにそんな事をいう臨也は、どうやらこの状況に多少慣れてしまったらしい。

　けれど、たった今そんな事を聞かされたこちらからすると……それはとんでもない現実だった。非現実だと言い換えてしまっても良い。とにかく、そんな信じることも難しいような夢物語など…聞かされても困るのである。信じられるわけがない。

　勿論、そんな困惑を気にする事も無く、彼は言葉を続ける。

「どうやら、そういう『世界』になっちゃったみたいだね。俺が元から女だった世界にさ。だけど急激な変更だったからか何人か書き変わらなかった存在が出てきた、って所じゃないかと俺は読んでるわけだけど」

「…その、手前の言葉が嘘じゃねぇっていう保証はどこにあんだよ」

　どうにかそれだけを絞り出すように言うと、あれ？と臨也は嬉しそうに笑った。

「やっぱりシズちゃんは書き変わらなかった一人だったんだね。嬉しいなぁ」

「良いから、何か証拠出せ」

「だから連絡とってくれれば分かるんだけど……ま、特別に。じゃあ右手出して」

「…？おう」

　とりあえず言われたとおりに右手を出した。

　すると右手首を掴まれて、そのまま彼（彼女？）の方に誘導された。

　…行先は胸。

　結果、柔らかな感触が手のひらから伝わって来て、思わず、勢い良く昨日までより小さな手を振りほどいた。

「わっ！？……もう、いくら俺だからって女の子にそういう乱暴なマネは……あれ？顔赤いけど大丈夫？」

「…煩ぇ」

　ふい、と視線を逸らすと、くすり、という笑い声が耳に届いた。

　それと、ぴろりん、という軽い音も。

　……ぴろりん？

　一瞬、本当に一瞬、その音が何を意味するのか分からなかった、けれど。

　直ぐにそれが携帯のカメラ機能に関係している音だと気付き、静雄は逸らしていた視線をばっと臨也の方に戻した。

　そして案の定、その手には携帯があったわけで。

　に、と機嫌良さそうに笑って、仇敵は言った。

「いや、もう本当に簡単に引っかかってくれるよね、シズちゃんってさ！」

「…！？…あ！」

「気付いた？まぁ気付くよね！」

　機嫌を保ったままに、臨也が両手を大きく広げる。

「良く考えてみてよ！別に胸じゃなくっても、背が低くなったことや手が小さくなった事とか……あぁいや、後の方はちょっと難しいかな？元の大きさなんて覚えてないよね……ともかく、他にも証拠にならたくさんあっただろ？見ただけでハッキリ分かるような証拠がさ！…そこでこれをチョイスした時点で俺の目的を察するべきだよねぇ？」

「っ臨也手前！」

「あ、そうそう」

　笑顔のままに、臨也が口を開いた。

「今の俺は『甘楽』だから、その辺りよろしく」

「知るかぁぁぁ！」

　叫びと繰り出した拳はひょいとかわされ、しかもそれは地面にめり込んだ。

　素早く右手を地面から抜いた時には、臨也…あるいは『甘楽』…は結構遠い場所まで退避していて、とんでもない笑顔で手を振りさえしていた。

「じゃーねー、シズちゃん！また今度！次会う時に男か女かわかんないけど、とりあえず遊んであげるから！楽しみにしててね！」

「二度と来んな！」

「照れなくても大丈夫だよ！それじゃ！」

　最後まで笑顔のまま、臨也はそうして街の雑踏の中に消えた。

　ぽつんと残されてしまった静雄は……とりあえず決める。

　…次に会ったら男だろうと女だろうと、絶対に殴ろう。

 

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続かないよ！
…本当は「静緒の事情」とかやってみたかったけどね。
その内やるかもだけどね！