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ようやく終了です。



 ばったり、という形容がこれ程相応しい場面もそうそうないだろう。
 頭のどこか妙に冷静な部分でそんな事を思いながら、目の前に広がる現状についての打開策を残りの部分で探す。もっとも、そちらは冷静でも何でもない混乱状態であるので、殆ど意味など無かったのだが。
 それでも考えねばならない時と言うのも、存在するのだ。
 ウイングは回転し過ぎたり全然回転しなかったりする頭をどうにか働かせて、今、ここで一番言うべき言葉は何なのかを必死に探していた。……恐らく、どんな重要な任務を与えられた時でもここまで必死にはならなかったと思う。
 あぁでもないこうでもないと、焦りに滑る思考をどうにか押さえていると、ぽつりと、出くわした相手……デスサイズが呟くように言った。
「オレ、まだ怒ってんだけどさ」
「……あぁ」
 それはそうだろう。自分でも驚く事に、今日は一日当たりの自爆回数の最高記録を塗り替えてしまったのだ。しかも一回や二回では無く、五回以上も。だというのにそれを反省もしなかった自分に対して彼が腹を立てるのは当然の流れだった。
 だからデスサイズが出会い頭に鎌の柄の部分で殴りかかってきたとしても全然おかしくないと思っていたし、空気の様に無視される可能性も捨てきってはいなかった。故に、言うべき事を言わなければと焦燥感を抱いていたのだが。
 ……何故だろう、彼の様子は思ったよりも落ち着いた物だ。
 そのことを妙に思っている間にこちらの思考は完全に落ち着き、彼は繋ぐように言葉を紡いだ。
「とりあえず、お前から言いたい事って何かある?まず、それから聞こうと思ってさ」
「言いたい事か……無いわけでは、ないな」
「そっか。じゃあ、言ってみろよ」
 聞いてやるから、と彼は続けて、黙った。
 そうして横たわった沈黙は不思議と痛い物では無かった。それは彼から出て行った時の苛々した感情が消えているからかもしれないと思ったが、そんなことはどうでも良いとも思った。今、理解しておくべきは一つ。言葉を聞いてくれると言う事。
「悪かった」
 そして、その言葉はするりと外へと出た。何度も何度も出ようとしたのを妨げられ、ようやく蓋が開いたから普通に出た、意思ある個体の様に。
 それを聞いた彼の表情は出くわした時のまま、静かな物だった。
 構わずに、続ける。
「自爆を止める気はさらさら無いんだが、今回のこれはやりすぎたと反省している。これからは少なくとも、これ以上の事はしない。約束するから許してくれ」
 言いながら、これは本当に謝っているのだろうかと自分でも不安になった。しかし、これが本心なのだから仕方が無い。ここで偽る事に意味は無く、ならばありのまま思った事を吐き出してしまった方が遥かに良いだろう。
 果たして、その考えはあっていたらしい。死神は小さく吹き出した。
「……それ、謝って無いじゃん」
「そうか?だが、オレが二度と自爆をしないなどと言っても信じられないだろう?」
「そりゃま、そうだけどさ」
 表情を崩してデスサイズは笑い、次の週間それを一変させて盛大にため息を吐いた。顔に浮かんでいるそれは、呆れ。恐らくそれは自分に対してではなく、彼自身に対してだ。
「あーあ……何でオレはこんなに甘いんだかなー。苛々してなくても怒ってたのは事実なのに、もう、まぁいっか、みたいな気持ちになってんだよな」
 どうやら予測は的中したようで、空を仰ぎ見んばかりになって嘆いている彼を前に、ウイングも薄く笑みを作った。
「謝るこちらとしては楽でいいんだがな」
「お前さ、そんな事言ってるとまた怒るからな?」
「冗談だから本気にするな」
「知ってるよ」
 戯れの様な会話に互いに笑い合い、二人は自然に横に並んで道を歩き始めた。行先……否、帰る先は当然ながら仲間たちがいる場所だ。
「あぁ、でも、真面目な話さ、回数だけはちゃんと減らせよ。まぁ、自爆しないのが一番なんだけどさ」
「分かっている。やり過ぎないよう気を付けるつもりだ……多分」
「つもりとか多分ってお前……本当、しっかりしてくれよな……」
 頭を抱えるデスサイズを見て、ふと、ウイングは思う。
 今回は随分と仲間たちが怒っていた気がする。その代表例が隣にいるわけだが、自爆なんて『いつもの事』でここまで怒ったのは何故だろうか。それを考えるにおいて重要なポイントとなるのはやはり、自爆回数の多さということになるのだろう。
 それで何で怒るのかと考えてみれば、結論は一つしかない。
 そこに至った所で、ウイングはピタリと足を止めた。
 つられるように隣を歩いていた死神も足を止め、訝しげにこちらを見た。
「どうしたんだよ、突然止まったりして」
「いや……もう一つ、言っておかなければならない言葉を思い出した」
 それは、他の仲間たちにも言うべきだろうが、誰よりも先に彼に言っておかなければならないだろう言葉。
「心配をかけて悪かったな」
「……言うのが遅いだろ」
「かもしれないな」
 頷くと、彼は顔を逸らして小さく「ばーか」と言った。






仲直り終了。きっと、帰ったら(怖い)笑顔のサンドロックが出迎えてくれることでしょう。
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