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骸は無駄に手先が器用だったらいいなぁと思ってたり。
というわけで、六道家のお話。
「……何コレ」
「見て分かりませんか?帽子ですよ、帽子」
「いや、それは分かるんだけど」
自分が訊きたいのはそう言うことでは無くて。
綺麗な模様まで作られているその毛糸の帽子を手に取り眺めながら、雲雀は呻いた。
「器用だ器用だとは思ってたけど……まさか、こんな事までするとはね」
「嬉しいですか?」
「鬱陶しいよ」
紫色の編み棒を持ち、今まさに帽子ではない別の物を毛糸で編んでいる最中の養父にそう言い放ってから、改めて己の手の中にある毛糸の帽子に目をやる。
文句の良い様が無い程に、それは上手にできているように思えた。模様はきっちりと整っていて崩れている場所が見当たらないし、試しに被ってみれば頭はすっぽりとそれに収まる。ピッタリ過ぎるその帽子は、下にずり落ちてくることが無いから視界が狭まる事も全くなさそうだ。
ただ、凪には大きすぎるだろうし、骸には小さすぎるだろうと、そう思ったところではたと気付く。
「……もしかしなくても、これ、僕の?」
「えぇ。恭弥専用の毛糸の帽子ですよ。ちなみにこちらは凪専用のマフラーです」
「暇人だね……」
自慢げに言う骸に、呆れながら言葉を返す。
「そんなの、買ってくれば済む事でしょ」
「おやおや、幼稚園児がそんな事を言ってはいけませんよ」
そう言って苦笑を浮かべた養父は、編み棒と編みかけのマフラーを一緒に床に置いて、ちょいちょいと手招きをした。近くに凪はいないし、この場合……手招かれているのは自分だろう、きっと。
まぁ、だとしても別に応じてやる必要は無い。
……だから、これは単なる気まぐれなのだ。
招かれるままに骸の傍に寄り、何の用なのだとムスッとした顔を作って彼を見上げる。
すると彼は苦笑を微笑みに変えて、ぽん、と手を頭にのせてきた。
「こう言う時は、ありがとう、と言わなければ」
「……余計な御世話だとしか言えないんだけど」
「そうですか。けれど、帽子はもらっておいてくださいね。それは恭弥以外は使えません」
「……あ、そ。でも、そんな事、知らないよ」
頭を撫で始めた手から逃れ、そっぽを向く。
「……だけど、捨てるのは勿体ないから貰っておいてあげる」
「分かりましたよ、恭弥」
そう言葉を零すと、隠す気が無いらしい喜色が伝わって来て。
……言わなければよかったと、ほんの少し後悔した。
~おまけで父と娘~
父が嬉しそうな表情をしているのを見て、凪は首を傾げた。
「おとうさん、どうかしたの?」
「聞いてください、凪!」
とてもとても嬉しそうに、骸が笑みを浮かべながら自分を抱き上げた。
一気に高い場所に連れてこられたことに一瞬ふらりとするけれども、直ぐに高い場所に慣れて、改めて父の方を見る。
父は、にこにこと、いつも自分と話している時よりも楽しげに喜ばしげに笑っていた。
どうしたのだろうか。何かいいことがあったのかもしれない。
もしそうなら何があったのだろうと、気になったから凪は何も言わなかった。訊いてくださいと父は言っていたから、何も言わなくても父はそれについて教えてくれると思ったから。
そして、父は言った。
「恭弥が、僕が作った帽子を受け取ってくれたんですよ!」
「おとうさんがつくったぼうし?」
「えぇ。凪にはさっき、マフラーをあげたでしょう?あれと同じデザインの帽子を、恭弥にもあげたんです。渡したらすぐに燃やされるかもしれないと思っていたのですが……どうやら、杞憂だったらしくてですね、かぶったまま部屋に戻って行ったんですよ」
「そっか……そうだったんだ」
分かった、と凪は頷いた。
「だから……きょうにいさんは、うれしそうだったんだね」
「……え?」
きょとんとした表情を浮かべた父に、自分の言葉がうまく伝わらなかったのだろうかと、凪は少し不安になった。
けれども、先の言葉以外に、先ほど見た兄の表情に対する説明なんて思いつかない。
しかたがないから、もう一度、同じ言葉を繰り返す。
「だからね、きょうにいさんがね、うれしそうだったんだよ」
「それは……本当ですか」
「ほんとう、だよ」
こくりと首を縦に振ると、そうですか、と呟いた骸がぎゅう、と凪を抱きしめた。
苦しいな、と思いながら、思う。
きょうにいさんにも、おなじようにしてあげればいいのに。
仲良しな六道家。
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