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大人になりたくない子供の話、とリンクしてるような感じです。臨也と波江さん。
「思えば、俺は随分と馬鹿なことを考えていたと思うよ」
いきなり始まった雇い主の演説に、波江はちらりと視線を向けて直ぐに逸らす。
始めから興味が無かった。だから聞くつもりもなかったし、話させるつもりもなかった。それでも何も言わないし何もしないくらいには、どうやら自分は彼に対して諦めを覚えているらしい。
こう言う時は勝手に語らせるに限る。
この場所で働き始めて数カ月。しっかりと体に染みついた教訓だった。
そしてそんな自分の反応も数カ月の間に当たり前になっていたので、特に気にした風もなく臨也は語りを続けた。
「昔さぁ、俺は大人になりたくなかったんだよね。子供から大人に成長する分、歳をとるだろ?それはつまり老衰にそれだけほど近づくと言う事だ。そう言うわけで、死にたくなかった俺は歳をとりたくなかったし、歳をとったことの象徴のような『大人になる事』を嫌がっていたわけだね」
ふっと思ったのだが、彼には果たして語り部としての資質があるのだろうか。いや、彼は語り部に、主人公の傍にずっといるような存在に、なりたいとは思わないだろうが。しかし良く喋ると言う点においては彼も語り部もあまり変わらないと思う。だから考えた。彼に語り部としての資格はあるのだろうかと。
多分無いなと、そのとりとめのない疑問の回答は直ぐに出た。折原臨也と言う人間は、どうしても人の話を聞かない時がある。人の話を無視して、自分の話したい事だけ言ってさようなら、ということも良くあることだ。もっとも、そうする相手はちゃんと選んでいるようだけれども。まぁ、そうでもなければ今頃彼は死んでいるだろう。
話は少しそれたが、ともかく、そんな人間にちゃんとした語り部の役が務まるわけが無い。語り部は主観と客観を入り混じらせながらも、しっかりと状況を伝えなければならない役割なのだから。
ならば、恐らく自分は駄目だ。
自分の場合のネックはただ一つ。最愛の弟に関する事項のみ、表現過多を抑える事が出来そうにないことだ。けれども、それを欠点だとは思わない。むしろ誇りに思う。それは、自分が弟をとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても愛していて、その愛が溢れすぎるがために引き起こる事象だから。
けれども、臨也はそんなものじゃない。自分の話したい事だけ話して、話したくない事は話さない。しかも、話している内容に真実が含まれているかさえも疑わしい。
そんな人間に、語り部をさせるべきではない。
資格が無いのではない。
資格を得る資格が無いのだ。
「しかしまぁ、それも幼稚な考えだったと思うよ。死に一歩近づくから大人にはなりたくない?そんな事言って、じゃあ自分はどうだったんだと子供の頃の俺に訊きたいね。大人にならなくても、子供のままでも日々を過ごしているだけで、それは死に刻々と近づく行為じゃないかってさ、言ってやりたいね。……どうせ人間は死から逃げられないんだから、不死の妙薬なんてあるわけが無いんだから、行動範囲が広がって出来ることも増える大人に、とっととなっておくべきだったんだよ」
そして語り部になれない彼はペテン師にしかなれないのだろう。
語るように騙り、欺き、たまに本当のことを口にしながら、それすらも嘘の中に沈めて、口元には猫の笑みを浮かべて。そして、語り騙るのだ。
なんともまぁ、大人らしい末路ではないか。人間は綺麗なままではいられないという証左だと、呆れ交じりの感嘆を抱くほどに、それは彼に相応しい行末である。
だが、考えてみれば。
彼は、果たして変わったのだろうか。
中学校、高校。そして今。彼は何か変わったのだろうか。
どうでも良いと思いながら、それでもそんな風に思う。
多分、変わっていないだろう。彼が変われる人間だとはどうしても思えない。彼は生まれた時にもこんな性格で、幼稚園に通っている頃にもこんな笑みを浮かべ、小学校に通っている頃にも語り騙り、中学校に通っている時にも人を裏で操って、高校に通っている頃にも嘲り笑って愛を呟いていたに違いない。
変わっていない人間を、果たして成長したと言う事が出来るのだろうか。
子供から大人になると言うのはつまり、成長したのだと言う事。変わったのだと言う事。
では、変わっていない彼は。
本当はまだ、子供なのかもしれない。
「大人って楽しいね」
同意を求める様な声音に、けれども波江は答えない。
答えてやる義理なんてどこにもないし、興味が無い。
とはいえ、彼の言葉をテーマに考え事をしていたのは事実。
ここは少しだけ相手をしてやろうと、口を開いた。
子供の時から変わらない大人に向かって。
「大人なんて、全然楽しくないわ」
臨也自身にとっての成長って何なんだろう。
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