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母と子と、続編、中編です。
昼。
街で出会った『子供』こと春奈と共に、罪歌はファミレスで食事を取ろうとしていた。
ちなみに何故ファーストフード店ではなくファミレスを選んだかと言えば、それはささやかだが確かに存在している『親』としてのプライド故だった。折角『子供』に食事をおごろうというのに、ファーストフード店へ行くようでは何だか格好が悪いではないか。
……だが。
春奈の注文を聞き、運ばれてきた品を見て、ほんのちょっと……その選択を後悔した。もっと手軽に、簡単に食べられる物ばかりを売っている場所に行けば良かったと、心の底から思ったのである。
彼女が頼んだものが高価だったというわけではない。むしろ、そうであった方が良かったかもしれない。金は、情報屋からくすねてきたものが十分に財布の中に入っているのだから、そうであったならば、きっと自分はここまで困ることも無かっただろう。
問題は価格では無く、量だった。
明らかに普通では無いその光景に眉間のしわを揉み解しながら、罪歌は、テーブルを挟んだ向こう側に座っている『子供』に声をかけた。
「……春奈、何度も聞くのは疑っているようで悪いとは思うけれど、この量で本当に足りてるの?変な遠慮はしてないわね?」
「遠慮して無いし、大丈夫です、母さん。私、元からそれほど食べる方じゃないんですよ」
いや、だからそう言う問題ではないだろう。
肉の類が存在せず、魚も存在せず、それどころか主食の姿さえ無く、あるのは野菜サラダが盛られた小さめの皿と無料で飲める水のみ。ダイエット中なのかと尋ねたくなるような光景のせいで頭を抱えたい衝動に襲われながら、罪歌は手元にあった白米の入った椀を春奈の方に差し出した。
きょとんとした表情を浮かべる『子供』に、言う。
「それだけじゃその内倒れるから、これも食べなさい」
「え……でも、そうしたら母さんの昼食が、」
「私は良いの。ハンバーグがあるし、野菜もあるし、スープもあるし。だけど貴方には野菜サラダ以外に何も無いでしょう」
「……水が、あるわ」
「揚げ足を取らないで頂戴。そういう話じゃないのは分かっているでしょう?」
足掻くように反論してきた『子』にピシャンと言い返し、コトン、と音を鳴らしながらサラダの皿の隣に白米の椀を置く。
やや不満げな表情を浮かべる彼女に、鋭く視線を返す。
「いい?ちゃんと食事は取らなければ駄目。遠慮をしていないという言葉は信じるけれど、だからといってこれは認められないわ。遠慮のせいで無く、これで十分だと思ってこれだけしか注文しなかったというなら、私は貴方を怒らなければならない」
「……けど、本当にこれで十分なんです」
「そう。なら聞くけれど、朝は何を食べたのかしら」
「……」
その言葉に、彼女は黙った。
だから、こちらも黙って彼女の言葉を待つ。時間ならたっぷりあるのだ、彼女が何かを言い出せるまで沈黙を守ることくらい、何と言う事は無い。
そして、暖かかった白米が若干冷たくなっただろうかと思う頃。
ぽつりと、春奈が口を開いた。
「……紅茶と……小さめのクロワッサン一つ」
「それだけ?起きたのは何時?」
「………七時、です」
「そして十二時になって、食べる量がこれだけ……ね」
それでよくもまぁ『これで十分』と言ってくれたものだ。
腕を組み息を吐くと、彼女は俯いてしまった。責められていると思ったのだろう。……いや、実際、責めているわけなのだけれども。
しかし、別に委縮して欲しいと思ったわけではない。
どうしようかと考えた末、罪歌は、項垂れる春奈の頭に、ポン、と手を乗せた。
彼女の、肩が揺れたのが分かる。
「……いい?私は、貴方が心配なの。貴方があまりに食事を取らな過ぎるものだから、不安なの。人間は、体外から食物を得てエネルギーすることで行動できるようになるでしょう?貴方が十分だと言ったこの量では、エネルギーがちゃんと得られないわ。えぇ、それで平気だと貴方は言うでしょうけれど、でも駄目。食べ過ぎろとは言わないから、食べ過ぎない事は止めなさい。何事も普通がいいのよ、こう言う事はね」
その辺りは……刀ではあるけれど、知っている。宿主となりえるのが人間なのだから、自然と知る事になってしまった。だから、あまりに食べなさすぎる相手には警戒を募らせるのである。何人か、食事をまともに撮らなかったせいで体力が無いせいで、痛い目を見た人間を知っているものだから。
「せめて人並みくらいに食事はとりなさいね。おなかがすいてないから量を減らすということもあるでしょうけれど、やはり限度はあるから」
「……はい。ごめんなさい、母さん」
そう言う彼女の頭はまだ上がらない。肩の震えは小刻みに、止まらなくなっている。
それに対しては何も言わず、罪歌は彼女の頭を優しく撫でた。
最後の春奈さんは委縮してるわけでは無くて、嬉し泣きみたいな感じで。
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