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拍手再録です。



066:迷いの森
 
 
 
 その問いかけは突然だった。
 自室でのんびりとコーヒーを飲みながら仕事関連の書類を整頓していると、とてとてと可愛らしい足音が聞こえ、顔を上げれば雲雀と凪がいた。
 そして一冊の本を抱きかかえた凪の手を引いていた雲雀が、唐突に口を開いたのである。
「ねぇ、どうしてヘンゼルとグレーテルは、森で迷ったわけ?」
「……それは、道しるべとして置いていたパン屑が小鳥に食べられたからですよ」
 いきなり何を尋ねてくるのだろうと訝しく思いながらも、自分の子供たちがこの場所に訪ねて来た事に歓喜しながら、骸は答えた。
 けれどもそれでは納得しなかったらしい。
 雲雀は、眉を寄せて首を傾げた。
「……で?」
「森の奥の方に入ってましたからね、出口の方向の検討が付かなかったんでしょう」
「地図とか持ってなかったの?」
「何分昔のことですからねぇ……今の様に、地図が当たり前に手に入る環境では無かったのかもしれません。もしかしたら家に地図はあったのかもしれませんけれど、持っていく暇が無かったのかもしれませんし」
「ふぅん……じゃあどうして父親と母親は帰れるわけ?」
「年季が違うのでしょう。母親はともかく、父親は恐らく子供のころからずっとその場所に暮らしていたのでしょうし、何気ない風景からでも方向が分かった可能性もあります」
「そんなもの?」
「あくまで可能性ですけど」
 納得しましたか?と視線で尋ねると、雲雀は凪の方を向いた。
「だって。分かった?」
 その言葉に対して、義兄とは違ってまだそこまで大人びた考え方は出来ていないらしい愛娘は、きょとんとした表情を浮かべて首を傾げた。……どうやら、良く分からなかったようだ。彼女はまだ幼稚園児だし、それも当たり前かもしれないが。
 それを言うなら雲雀だって幼稚園児だけれど、もう、彼に関してはそう言う物なのだと思う事にしている。それに、大人びているとかいないとか、そんな事はどうだっていい。どっちであろうと、自分は彼らを愛するだけなのだから。
 そして、愛すべき子供はこちらを向いてこう言った。
「……凪にも分かるように分かりやすく言って。僕も言うのは相応な質問にするから」
 ……まぁ、妥当な要求だろうと、骸は苦笑を浮かべた。
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